2013年以降のコンシューマライゼーションのトレンドは「より人間に近づいたユーザーインタフェース(UI)」になりそうだ(図1)。スマートフォンに採用されたマルチタッチUIに続き、新たなUIが続々と登場している。今から2~3年後には、業務用途でも大きな市場に発展する可能性がある。

図1●2013年以降は「より人間に近づいたUI」が業務スタイルを変える。透過型HMDや「Kinect」、「Siri」が次世代コンシューマライゼーションの候補
図1●2013年以降は「より人間に近づいたUI」が業務スタイルを変える
透過型HMDや「Kinect」、「Siri」が次世代コンシューマライゼーションの候補。
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 既に消費者向け製品を中心に、これらのUIは実用化済み、あるいは実用化に向け開発が進んでいる。

 物体の奥行きを捉えることができるKinectのようなセンサー、現実の空間に映像を重ね合わせることができる透過型HMD(ヘッド・マウント・ディスプレー)、精神の集中度などを測定できる脳波センサー、スマートフォン「iPhone 4S」に搭載された「Siri」のような音声認識を組み合わせたエージェントサービス。いずれも、キーボードやマウスで入力し、ディスプレーで出力する従来のUIと比べ、より人間の自然な所作に近いUIである。

 既にこうしたUIを業務に応用する試みは始まっている。例えばチームラボは、市販のKinectと開発ツールを使い、「1分に100着試着できる」という仮想試着システムを開発中だ。AR(拡張現実)の一種で、Kinectで人間の上半身の位置を検出した上で、その位置に同じサイズの洋服を重ね合わせて表示できる。

 同システムを開発したチームラボ ITサービスDiv. コンピュータビジョンチーム エンジニアの斎藤康毅氏は「従来は研究用で50万円ほどした奥行きセンサーが、コンシューマー機器として2万円で買えるのは驚き。性能も研究用に遜色ない」と語る。2011年中には、洋服の3次元モデルを採用し、体の回転や腕の上下にも追従できるシステムを完成させる計画だ。

 このほか、NECや新日鉄ソリューションズなどが透過型HMDを使った業務支援システムを、KDDI研究所がゲーム用脳波センサーを使った健康測定システムを開発している。

SDKがアプリ開発を加速

 より人間に近づいたUIの実現に当たっては、公式/非公式にSDK(ソフトウエア開発キット)などの開発環境が用意されており、このことが業務用アプリケーションの開発を加速させている。

 先に紹介した東京女子医科大学やチームラボによるKinectアプリケーションは、Kinectに奥行きセンサー技術を提供したイスラエルのプライムセンスなどが公開したSDKを使って開発されたものだ。Kinectの製造元である米マイクロソフトも、2012年に公式の商用SDKを発売する予定。商用アプリケーション開発のパイロットプログラムにはトヨタ自動車を含む200社が参加している。

 音声認識技術をベースにしたエージェントサービスのSiriについて、米アップルは他のアプリケーションに応用するためのSDKやAPIを公開していない。だが在野のハッカーによってSiriの機構が解析された結果、音声コマンドでサーモスタットを操作して部屋の温度を調整する、クルマのエンジンを始動させるといった応用事例がWeb上で報告されている。

 優れたUIに心引かれた様々な人たちの手で、次なるコンシューマライゼーションの萌芽が生まれつつある。