企業の情報システム部門は、FacebookやEvernoteなどコンシューマーITが業務にもたらすメリットを積極的に生かすべきだ。コンシューマーITと同様の機能を持ちながら、企業の一般的なセキュリティポリシーに合致させた製品やサービスも続々と登場している(図1)。

図1●コンシューマーITの機能を使える企業向けITの例。管理者権限やプロジェクト管理など、業務に必要な機能を備える
図1●コンシューマーITの機能を使える企業向けITの例
管理者権限やプロジェクト管理など、業務に必要な機能を備える。
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 楽天が、約7000人のグループ社員にYammerのアカウントを付与したのは、二つのメリットを想定してのことだという。一つは、BCP(事業継続計画)対策である。楽天グループは、傘下に証券会社など金融業を抱えており、社内メールを社外では閲覧できないなど厳格なセキュリティポリシーを持っていた。このため、東日本大震災で在宅勤務の社員が増えた際、社員同士で連絡を取り合う手段が電話などに限られることになった。Yammerの導入で、勤怠管理から社員向け一斉同報まで、緊急時に社内メールの代替として使えるようになった。

 民間調査会社ITRの甲元宏明シニア・アナリストは、東日本大震災を境に、コンシューマーITをBCP対策に使いたいとする情報システム部門からの相談が増えたという。「例えばSkypeについて、震災前は『どうすれば社内での勝手なSkype利用を止められるか』の相談を受けた。震災後はガラリと変わり『固定電話が使用不能になった場合の代替としてSkypeを導入できるか』という相談が増えた」(ITRの甲元氏)。

 もう一つの理由は、M&Aを通じて増えた世界のグループ企業の社員を交流させ、シナジー効果を高めることだ。三木谷浩史会長兼社長はYammerの正式採用に合わせ、Yammerへのテキスト投稿を、社内公用語である英語に統一するよう指示した。

 このことで「投稿の敷居が上がり、一時的に利用者数が減ってしまったのも確か」と、Yammerの導入を担当した楽天 アーキテクトグループの吉岡弘隆技術理事は笑う。だがこれによって世界のグループ会社との交流が促進された。例えば、楽天が2011年11月に買収を発表したカナダの電子書籍事業者のコボ。来日したコボの社員が「楽天本社のカフェテリアで、電子書籍端末のデモをする予定」とYammerでつぶやいたところ、コボの事業に興味がある楽天社員が殺到したという。「こうした情報をメールで同報すると、膨大なメールに埋もれてしまう。興味がある人同士を結びつけるSNSの良さが生かされた形だ」(吉岡氏)。