政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)の「電子行政に関するタスクフォース」は2012年6月20日、「電子行政オープンデータ戦略に関する提言」を公表した。今後は、IT戦略本部が組織する実務者会議で、実現に向けた方策・課題解決策を論じることになる予定だ。以下では、この提言が目指す電子行政の将来像、狙いや意義を整理したうえで、実現に向けた課題を抽出し、対応の方向性についてまとめる。

電子行政オープンデータ戦略とは

 今回の提言は、「新たな情報通信技術戦略工程表」(2010年6月22日 IT戦略本部決定)および「電子行政推進に関する基本方針」(2011 年8 月3 日 IT戦略本部決定)にのっとって、タスクフォースが2010年9月15日の第1回会合以降、わが国のオープンガバメントを確立するため、その在り方の調査・検討を行ってきた成果をまとめたもの。公共データの活用促進に集中的に取り組むための戦略として位置づけられている。

 従来オープンガバメントというと、行政の透明性・信頼性向上を目的に語られることが多かった。タスクフォースでも、当初は「行政情報の公開、提供」「国民の政策決定への参加」という視点で検討されていた。潮目が変わったのが、2011年3月の東日本大震災の発生以降である。震災時に一部の行政情報システムや重要データが被害を受け、行政の業務継続に支障を来す事態が発生したことから、行政機関が保有する情報資産のバックアップの重要性が強く認識されるようになった。また、被災地からのニーズや情報の収集、迅速な情報提供にも課題が見られたことから、有事にも本当の意味で“使える”情報提供の在り方について、考えなければならなくなった。

 さらに、海外に目を転じると、米国のオバマ大統領による「Transparency and Open Government」やOECD(経済協力開発機構)の「公共データへの有効なアクセスおよび利用の拡大に関する理事会勧告」など、公共データを社会的な資産と捉えて、積極的に民間活用を促進する施策が進んでいる。産業界では、いわゆる「ビッグデータ」として大量の構造化・非構造化情報の収集・分析によって新たな付加価値を生み出すサービスが登場している。

 このような動向を受けて、オープンガバメント推進の目的として、従来の「透明性・信頼性向上」「国民参加・官民協働推進」に加えて、公共データなどを活用した新たなサービス創出などの「経済効果」も加えたのが、今回の提言である(図1)。

図1●提言でのオープンガバメントの新しい定義
図1●提言でのオープンガバメントの新しい定義
出典:第23回 電子行政に関するタスクフォース配布資料
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図2●電子行政オープンデータ戦略に関する提言の概要
図2●電子行政オープンデータ戦略に関する提言の概要
出典:電子行政オープンデータ戦略に関する提言(概要)
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 また、これまでも公共データの公開について掛け声はあったものの、なかなか成果が出なかった現状を踏まえて、公共データの活用を確実に進めるための基本原則を定めたことも特徴である。(1)政府自ら積極的に公共データを公開、(2)機械判読可能な形式で公開、(3)営利目的・非営利目的を問わず活用を推進、(4)取り組み可能な公共データから速やかに公開しノウハウを蓄積---の4点を挙げている(図2)。

 当面は、公共データ活用に向けた実証事業の実施や、その結果に基づく環境整備などが行われる予定で、具体的な施策の実施は2013年度(平成25年度)以降になりそうだ。推進体制としては今後、IT戦略本部が組織する実務者会議で実現に向けた方策・課題解決策を論じることとされている。