米IBMが“王者”の地位を奪還した。世界で稼働するスーパーコンピュータの実行性能を集計する「TOP500プロジェクト」が2012年6月に発表した最新ランキングで、米IBM製のスパコンが3年ぶりに首位となった。トップ10のうち五つをIBM製が占めた()。

表●米大学などによる「TOP500プロジェクト」が2012年6月に公開した、最新の世界スパコン実行性能ランキング
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 返り咲きの原動力となったのが、省電力を重視したIBMのスパコン新製品「BlueGene/Q」である。演算機能とネットワーク機能を集積したプロセッサ「Power BQC 16C」を採用。実行性能16.32ペタフロップスで首位を獲得した「Sequoia」の場合、消費電力当たりの実行性能は2.07ギガフロップス/Wで、富士通が開発した「京」の2倍以上だ。

 だが、IBMがこのまま首位の座を維持するのは容易ではない。現行機の100倍となる1000ペタ、つまりエクサフロップスを目指す研究開発では、米インテルや米エヌビディアといったプロセッサ企業が主導権を握るためだ。スパコンは、サーバーの省電力化や「ビッグデータ」など高速分析の技術を開発する絶好の市場。両社ともエクサ機を開発するDARPA(米国防総省高等研究計画局)プロジェクトに名を連ねる。

 米インテルは6月18日、主プロセッサの実行性能を高めるコプロセッサ製品の新ブランド「Xeon Phi」を発表した。2018年までにエクサフロップス機を実現するためのキーデバイスと位置づける。

 第一弾は50コア超のプロセッサを載せたPCI Expressボードで、2012年末までに量産を始める考えだ。スパコン分野のほか、企業のデータセンター向けも想定する。

 エヌビディアは消費者向けグラフィックスチップの技術を応用したコプロセッサ「Tesla K20 GPU」を2012年末に発売する。「10ラック、400kWで1ペタの実行性能を実現できる」(エヌビディア)という省電力性能が特徴で、単純計算ではBlueGene/Qを超える2.5ギガフロップス/Wを達成できることになる。

 IBMはエクサ機開発への意欲は示すものの、具体的な開発計画は公開していない。「京」が2位に後退した富士通も「近年中に1位を奪回できる」(山本正已社長)と意気込みは示すが、次世代機の方針は未定だ。プロセッサの開発を継続するか、インテルなどとの競争を避け、実行効率を高めるネットワーク技術やミドルウエアの領域に資源を集中させるか。IT大手は選択を迫られている。