気が付けば、この連載もまもなく40回に差し掛かろうとしている。おそらく、この連載をはじめ「エンタープライズソーシャル」を読んでいる読者は、これまでも日々ソーシャルメディアに関する様々な情報を収集しているだろう。もちろん、日本国内における情報だけではなく、アメリカをはじめとする海外の情報も頻繁にチェックされているはずだ。

 特に海外の情報では、新しく始まったサービスに関するニュースをはじめ、日本でも馴染みのある企業が斬新な形でソーシャルメディアをビジネスに活用している事例などが、日々何らかの形で日本語に翻訳、あるいは要約された形で配信されている。そうした情報を参考にしている人も多いだろう。そして、このような斬新な事例を垣間見たり、あるいは海外(特にアメリカ)では非常にソーシャルメディアが使われているという話を読み「それに比べて日本は……」と焦燥感を抱く人も少なくないのではなかろうか。

現場の実態は海外も日本国内も大差ない

 ただ実際には、海外(特にアメリカ)でソーシャルメディアを積極的に利活用する企業が爆発的に増えているのかというと、決してそうとも言えない状況である。特にFORTUNE 500の企業では、その傾向が非常に強く見えている。これはブログであろうと、Twitterであろうと、Facebookであろうと、あまり変わりはない。

 比較的初期の段階で、一部の大企業がソーシャルメディアをビジネス方面に活用し始めていた。だが、それ以降「企業におけるソーシャルメディア活用」は、ある程度は広まったものの、その後爆発的に普及しているわけではなく、むしろ、その広がりは若干停滞気味になってきているというのが実情だ。

 現地のいくつかの企業のソーシャルメディア担当者と情報交換をしていると、その会話の端々に「マネジメント層がなかなか理解を示してくれない」という、ある種ボヤきにも近いコメントが飛び交うことも、決して珍しいことではない。アメリカの、特にソーシャルメディア方面を主に手掛けるエージェンシーが提供している資料などを見ていると、「How To Ask Your Boss To Reduce Traditional Marketing」(いかにして伝統的なマーケティング手法を縮小させるように上司を説得するか)という半ばあおり気味な論調で、ソーシャルメディアをビジネスに使うとどのようなメリットが得られるかといった話が延々と繰り広げられていたりする。実は海外の現場でも、日本国内で語られている悩みとあまり変わらず、マネジメント層の理解を得るのが大変なのは、日本もアメリカも変わらないのだ。

 理解を得るのが大変な最たる理由も、あまり変わらない。仮に、これまでのマーケティング手法からソーシャルメディアを活用したマーケティング手法にシフトさせたとして、それに足りうるだけの効果やメリットがなかなかイメージできないという現状にあるからだ。

海外でも手探りで可能性を探っている段階

 日本でよく語られる海外の斬新な事例も、実はそれらがきちんと継続して機能しているかということについては、あまり知られていないだろう。仮に、実は失敗と判断されて人知れず姿を消すようなことがあっても、そういった失敗の話はなかなか日本には伝わってこない。斬新な事例がどんどん生まれてきているのは事実だが、その裏でシビアな試行錯誤がなされているということが見えず、結果としてポジティブで華々しい話題だけを断片的に捉えがちになってしまうのだ。そのため、日本より海外の方が進んでいるという意識がどうしても強くなってしまうように思える。

 現状は、日本に限らず海外でも、まだまだ様々な可能性が模索されている段階だと言っていいだろう。もちろん、そういった状況下で、様々なトライ&エラーを試行していくということも、そして様子見という形でしばらく状況をつぶさに観察するということも、すべては選択肢のひとつでしかない。

 何よりも重要なのは、断片的に伝わってくる海外の動きにいたずらに振り回されることなく、地に足を付けた状態で、きちんと自分たちの戦略を考え、それに合った形でソーシャルメディアをビジネスに活用していく方法をじっくりと考えることだ。

熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)
リーバイ・ストラウス ジャパン デジタルマーケティングマネージャー
熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)1974年生まれ。プロミュージシャンからエンジニア、プロダクトマネージャー、オンライン媒体編集長などを経て、マイクロソフトに入社。企業サイト運営とソーシャルメディアマーケティング戦略をリードする。その後PR代理店バーソン・マーステラでリードデジタルストラテジストを務め、2011年12月よりリーバイ・ストラウス ジャパンにてデジタルマーケティングマネージャーとなる。