ヤンゴン国際空港に着くと、入国審査には中国や韓国、タイなどからの出張者が列をなしていた。ビジネス目的とみられる日本人の姿も混じる。ダウンタウンや郊外の高級ホテルはどこもほぼ満室だ。1年前に1泊100ドル程度だった部屋は、値上げが繰り返されて今や約200ドル。海外から押し寄せる人の多さを裏付ける。
ミャンマーは長らく軍事政権が続いてきたが、2011年3月の新政権誕生が、民主化と経済開放路線への転換点となった。さらなる節目が、2012年4月1日の連邦議会補欠選挙。民主化運動を進めてきたアウン・サン・スー・チー氏率いる最大野党、国民民主連盟(NLD)が一定の議席を得た(写真1)。欧州連合(EU)と米国は着実な民主化を評価し、4~5月にミャンマーへの経済制裁緩和を相次いで発表。日本も25年ぶりとなる円借款の再開を表明した。
低廉で勤勉な労働力、人口6000万人の潜在市場、インフラ整備需要の盛り上がり─。商社や流通など日本企業もこぞって、手付かずの市場が広がるミャンマーへの投資を積極化する。IT企業も例外ではない。中国に次ぐ、新たなオフショア開発の主力拠点として有力視し始めた(表)。市場開拓の前に、まず新たな「生産拠点」を構えるアプローチだ。
ミャンマーでのオフショア開発のメリットは三つある。コストの低さ、日本語習得の早さ、穏やかで協調性があるとされる国民性である。
IT人材の給与は日本の20分の1
ミャンマーにおける大卒IT人材の初任給は100~200ドル程度と、日本比で20分の1から10分の1である。これは中国の約5分の1、ベトナムの約3分の1の水準で、圧倒的なコスト競争力を持つ。
さらに重要なのが、ミャンマー人の日本語習得の早さである。ミャンマー語と日本語の文法が類似していることが大きな理由とされる。ヤンゴンの日本語学校最大手「MOMIJI」の村松愛校長も、「通常は理解に300時間はかかるとされる日本語の教科書の内容を、ミャンマー人は150~200時間で習得してしまう」と証言する。
国民性にほれ込む日本企業も多い。ミャンマー人は仏教への信仰心があつく、両親や上司など目上の人を敬う。自己主張も控えめであり、チームワーク重視で勤勉といわれる。「日本人と気質が似ている。一緒に働きやすい」と、日系企業関係者は口をそろえる。
ミャンマーにはIT系の専門大学が20校以上あり、毎年数千人規模のIT人材が卒業している。過去は英国領だったため、小学校から英語教育が始まり、大学の授業は英語で行われる。ITの基礎能力と英語力があり、日本語習得に長けた勤勉な人材を、月100~200ドルで雇用できるのだ。