プロジェクトの現場でコミュニケーションの手段として広く使われているメールソフトは、便利な機能が充実している。例えばあるメールソフトは、受信メールに今日、明日、今週、来週などの期限フラグを付加する機能を備える。その機能を使うと、設定した期限に応じて、赤やピンクの旗マークが自動表示される。メールを開くと、ヘッダー部分に「ご協力お願いします:2012年6月15日金曜日までに開始してください」などといった表示もされる。

 そういった便利なメールソフトの機能のうち、プロジェクトの現場で使うことが多いのは、重要度の設定機能だろう。多くのメールソフトでは、送信者がメールソフトの機能を使って設定すると、メール送信時に「重要度:高」「重要度:低」といった設定ができる。重要度が高のメールにはそれと分かるマークや文言が表示される。受け取り手にぜひ確認してほしい場合に有効だ。

 PM(プロジェクトマネジャー)は、プロジェクトでの決定事項や変更点を伝えるために、現場のメンバーやステークホルダーにメールを送る機会がとても多い。ただしこの時、メールソフトの機能を使って「重要度が高」であるというメールや、件名の冒頭に「【重要】」「【緊急】」といった文字を加えたメールを乱発してはいけない。

 これらのメールを乱発すると、受け取り手がそれに慣れてしまって効力が落ちてしまうからだ。つまりPMがオオカミ少年のように、周囲から受け止められるようになるのだ。

重要や緊急メールを連発したPM、Iさんのケース

 SIベンダーに所属するIさんは有能なPMだ。朝早くから夜遅くまで仕事に打ち込んでいる。「自分がメンバーの先頭に立ってがんがん仕事をする」といった自負を持ち、複数プロジェクトのPMを兼任していることから、Iさんの日常はとても慌ただしい。分刻みでスケジュールをこなし、別の現場への移動中に時間があれば必ず電話やメールをして着実に仕事を済ませるようにしている。

 Iさんからプロジェクトのメンバーに届くメールには、重要マークの付いていることが多い。マークを付けない場合でも、件名に「【緊急】…」「【至急】…」「【大至急】…」といったメールが少なくない。

 Iさんがそうするのには理由があった。自分が送ったメールのレスポンスが早ければ早いほど仕事を効率的にこなすことができるので、「自分にとって重要、緊急と思われるメールにはきちんとマークを付けて相手に伝えるべきだ」と信じているのだ。

 Iさんからメールを受け取っているプロジェクトメンバーたちは当初、Iさんのメールに振り回されていた。ところが次第に「Iさんはこういう人なんだ」と割り切るようになっていった。重要マークが付いていたり、至急という文字を含むタイトルになっていたりしたメールは、意識してチェックはするものの、メール内容を見て本当に急ぎのものでなければ、通常の優先度でメールに対応している人が多くなっていた。

 そんな中でちょっとした問題が起こった。Iさんがあるプロジェクトで、本当に重要な依頼事項をメールで伝えたのに、ユーザー企業の窓口担当者やメンバーがすぐに対応してくれないことがあったのだ。がっかりしたIさんは、プロジェクトのメンバー全員が集まる定例会議の場で、「重要なお願いをないがしろにしないでください」と不満げに伝えた。

 その場では参加者から何の反応もなかった。「みんなすんなりと受け入れてくれた」。定例会議が終わってIさんがほっと一息ついていたところ、ユーザー企業の窓口担当者のFさんから、以下のようなメールが届いた。

件名:メールを送っていただく際のお願い

I様

I様からは、重要度が高いというメールが送られてきますが、そういったメールがあまりにも多くて本当に重要なものとの区別がつきにくくなっています。

しかも、重要度が高いというメールを日に何度も受信すると、「自分が送信したメールはほかの人のものよりも大切なのだ」という、他人への配慮に欠ける印象を受けます。正直I様のメールに良い気持ちを持てません。

ですから周りに今回のような見過ごしがプロジェクトで起こってしまったのだと私は考えます。

重要かどうかは内容を見てこちらでも判断できますので、本当に重要なもの以外は、重要度を設定せずに送っていただけますでしょうか。

F

 プロジェクトメンバーは皆、何も言わなかったものの、ユーザー企業の担当者のFさんは、普段から気になって仕方がなかったようだ。Fさんからのメールで「重要メールや緊急メールを乱発することを嫌う人もいるのだ」と気付いたIさんは、本当に重要なメールにだけ、重要度を設定するように改めた。