システム開発プロジェクトの上流工程では、現状分析やあるべき姿の検討に際して、インタビューやヒアリングなど、他者とのコミュニケーションを必要とする機会が数多くあります。コミュニケーションを媒介する言葉ですが、同じ日本語を使っていても、業界特有の使い方をする用語や、その企業や企業グループ内だけ、あるいは部門内でしか通用しない用語もあるので注意が必要です。

 今回は、この用語のすれ違いが原因で問題が発生したケースについて見ていきましょう

病状:会議が発散して収束に苦労

イラスト:山崎 直子(マナスリンク)

 A社では、過去の経緯から部門単位でシステム開発が進められてきました。各システムは、部分最適を優先したものとなっており、システム間の連携はとられていません。情報が一元管理されていないので、受注に対する進捗状況の追跡など、部門間を跨(またが)る情報を必要とする場合には、時間と手間がかかっています。

 こうした状況を改善するため、A社では各部門の代表者を招集して、システム統一について検討する会議の場を設定することとしました。しかし、この会議で意見の食い違いがしばしば起こり、先に進めないという事態が発生してしまいました。

 システム統一に際しては、システムを構成する要素について統一した定義が必要とされます。要素のひとつとして“商品”が挙げられますが、会議では何を“商品”と呼ぶかという点で、次のような課題が浮かび上がりました。

 実は、A社では日本国内のほかに海外にも工場があり、同じ物を製造しています。A社の取引先の中には日本国内で製造した物だけしか納品を認めないというケースがあり、営業側のシステムでは製造場所という属性が必須となっています。一方、製造側のシステムでは製造場所の管理は必要ないかわりに、製品、半製品、仕掛品といった製造工程での属性が必須となっています。

 各システムでの登録においても、営業側のシステムには顧客への販売品が登録されており、製造側のシステムでは部品を含めた製造物全般が登録されている状態です。

 この様な状況の下、各部門に商品管理について説明を求めたところ、“商品”、“品目”、“品名”、“製商品”、“製品”…、といった言葉が飛び交うこととなりました。しばしば「その“商品”とは何を指しているのか? 製造過程も意識しているか?」というような確認が入り、会議が中断することがありました。あるいは、「仕掛品に商品価値を見つけて販売することはできないだろうか」といった営業戦略の話に脱線することもありました。商品管理の話をしているにも関わらず、このように会議が発散してしまい収束に苦労することとなりました。

 どうも各部門で使用している“商品”に対する概念は、部門システムの影響を受けていると思われます。各部門が開発したそれぞれの部門システムを確認すると、“商品マスター”、“品目マスター”、“品名マスター”、 “製商品マスター”など、独自の呼び方で商品のマスター管理が行われていました。

 こうした背景もあり、同じ“商品”という用語でも、それぞれのステークホルダーが頭の中で思い描く内容に違いが生じたようです。