友人の経営コンサルタントが先日、Facebookに面白い書き込みをしていた。クライアントとのやり取りで「その理由は三つあります」と答える話術はもう古く、今なら「さしすせそ」で答えよ、ということであった。「三つの理由」は確かにコンサルタントの基本話術として有名で、「三つある」と断言してから必死で理由を三つ考えるのである。

 しかしこれからの答えは「それは『さしすせそ』です」となるわけだ。例えば「業績の良い会社とは?」と聞かれたら「最先端!新興国!ストラテジー!戦術!組織!」と答える。さ行は単語が多いので、答えが見つかりやすいからという。

 筆者も「三つあります」の話術は頻繁に使っていたのだが、古いと言われてしまったので、今回は「さしすせそ」に挑戦してみようと思う。ITエンジニアに必要な「さしすせそ」を考えてみよう。

 まず「さ」であるが、やはりこれは「サービス精神」だろう。サービス精神といっても何か気の利いたギャグを入れて、周囲の笑いを取るといったことではない。社内SEであれベンダーSEであれ、システムを実際に業務で利用するユーザーに対して常に顧客志向で接するということだ。

 現場を見ると、サービス精神は営業の役割と思っているITエンジニアはまだまだ多い。ユーザーと良好なコミュニケーションを取ることはシステム構築において必須であり、その基本姿勢がサービス精神だろう。

 次に「し」。これは「資格」でどうだろうか。IT資格を持っていることと、素晴らしいITエンジニアであることはもちろんイコールではない。しかし、自分の能力を他人にアピールする上では、やはり資格を持っていると分かりやすい。また資格試験のために、いろいろと勉強して理解を整理することは、特に若手のITエンジニアにとっては非常に良いことである。

 続いて「す」であるが、これはやはり「スキル」が真っ先に思い浮かんだ。ITエンジニアの価値とはスキルをどれだけ持っているか、それを仕事で活用できるかによって決まることが多い。ベンダーSEの単価を交渉するときも、決め手になるのはスキルである。システムスキル、ビジネススキル、マネジメントスキル、コミュニケーションスキルとスキルの分野は広い。

 この広いエリアのスキルをどのように伸ばしていくかを考えることは、次の「せ」である「選択と集中」につながってくる。選択と集中に関しては一つの事例を5月号の本コラムでも紹介したが、ある技術分野に特化して仕事や勉強をしてスペシャリストを目指すのか、それとも幅広い分野を満遍なくカバーしてジェネラリストの道を進むのか、非常に悩ましい問題である。

 逆にいえば、この悩ましい問題に自分なりの回答を出して進む道が見えたITエンジニアは、スキルアップやバリューアップする大きなチャンスを得ることができるだろう。

 最後の「そ」は少しひねって、「外との接点」を挙げてみたい。ひと言でITエンジニアの仕事といってもいろいろあるのは承知している。だが一般論でいえば、限られた物理的空間での特定の人間関係の下で、長時間あるいは長期間にわたって仕事をするパターンが多い。朝から晩までSEルームでおなじみのメンバーと仕事をするといったようなことだ。

 これはITエンジニアにとって、ビジネスパーソンとして成長するという視点から見ると、あまり望ましいことではない。自分とは異なる知識や価値観を持った人間と接して学ぶことは多い。開発プロジェクトの最中などは、意識して外との接点を作る必要があるだろう。

 ITエンジニアに必要なのは「サービス精神!資格!スキル!選択と集中!外との接点!」とまとめてみた。読者の皆さんも自分なりの「さしすせそ」を考えてみると面白いと思うのでお勧めしたい。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
1963年東京都出身。イントリーグ代表取締役社長兼CEO、NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長。日本IBMの金融担当SEを経て、ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画、96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング、RFP作成支援などを手掛ける。著書に「事例で学ぶRFP作成術実践マニュアル」「RFP&提案書完全マニュアル」(日経BP社)、