中国市場への進出に挑む日本のIT企業が増えている。中国市場で成功する秘訣はどこにあるのか。売上高725億円のうち9割以上を国内市場で稼ぐ中国IT大手、浙大网新科技(インシグマ)の鐘明博執行総裁に聞いた。

(聞き手は大和田 尚孝日経コンピュータ



会社の特徴と事業領域は?

浙大网新科技(インシグマ) 鐘明博執行総裁
浙大网新科技(インシグマ)
鐘明博執行総裁

 当社は中国国内向けのシステム構築(SI)事業やITアウトソーシング事業を中心に営んでいる。2010年度の売上高は58億元(約725億円)で、そのうち9割以上が中国市場向けだ。中国市場では通信や電力、金融、自治体向けシステムといった社会インフラ系の大規模システムを中心に手掛けている。最近はBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業にも力を入れ始めている。

 中国全土、26カ所の大中都市に拠点を持ち、300社の大手企業と長期的なパートナー関係を築いている。直接付き合いのある顧客数はざっと7000社。このほか販売パートナーを6000社確保している。

 国内事業ほど規模は大きくないがグローバル展開もしており、米国の市立病院に医療保険の計算システムを納入したり、海外の金融機関に機関投資家向けのアルゴリズム取引システムを提供したりしている。売り上げ規模は、日本向け事業が2億元(25億円)程度。米国向けも同程度だ。

中国のIT企業というと日本ではオフショア開発が中心というイメージがあるが。

 当社はエンドユーザーから直接業務を請け負うビジネスを中心としている。オフショア開発事業は、グループ会社の北京新思軟件技術が主に担っている。

狙い目は通信・金融・政府系、製造・流通は代金回収が難しい

中国市場の特徴とシステム導入に対する考え方は?

 業種によって大きく異なる。システム導入に積極的なのは通信会社、金融機関、それから大手国営企業や地方政府だ。これらの業種の企業や組織はIT投資によって効率化を進め競争力を高めようと考えている。新技術の導入にも積極的だ。当社を含むIT企業にとっては、ビジネスがしやすい相手といえる。

 反対に、苦労するのが製造業と流通業だ。これらの業種の企業には、ソフトやシステムの価値を認めてくれないところが多い。そのため、システムを納入しても対価を支払ってくれないことがある。業務要件を顧客企業が自らまとめられないという問題もある。

日本のIT企業が中国市場で売り上げを拡大させるためのポイントは?

 IT投資に積極的な通信、金融、政府系企業・組織にターゲットを絞るのが賢明ではないか。それから、業務アプリケーションの導入よりもインフラ領域の方が入りやすいだろう。グループウエアやメールシステムの導入、データベースやシステム運用ソフトといったミドルウエアの提供などだ。

 欧米のIT企業を見ても、中国市場でそれなりに成功しているところは、その多くがITインフラ領域で勝負している。業務アプリケーションの構築は請け負わないか、請け負ったとしても現地のIT企業に再委託するケースが大半だ。日本のIT企業でも、例えば日立製作所は運用ソフト「JP1」の事業が順調だ。これもやはりITインフラの領域に入る。

 あえて業務アプリケーション分野に挑むなら、注意しなければならないことがある。日本のソフトをそのまま中国に持ってきても、まず売れないという点だ。中国企業は日本企業ほど細かい機能や品質を必要としていない。高機能で高品質だが高価格のソフトはまず売れないと考えた方がいいだろう。