今回は、これまでも何度か取り上げた全米科学財団(NSF)のイノベーション部隊(I-Corps)の調査結果を紹介します。参加者のほとんどが「拡張可能なビジネスモデルを見つけた」「製品と市場の適合性を見つけた」と回答しました。ブランク氏は、この取り組みを通じて米国が変わる可能性を感じているようです。(ITpro)

 NSF(全米科学財団)を教える私たちの目的は、この世に小さな影響を与えることでした。私たちは、終身在職権を持っている大学教授に対して、研究のアイデアを企業に転換することを教えられるでしょうか。仮にできたとして、それが彼らの人生を変えられるでしょうか?

 私たちは今、それらの質問に答えられます。もちろん、それはイエスです。

NSFのためのリーン・ローンチパッド・クラス

 過去6カ月、私たちはNSFのイノベーション部隊(I-Corps)のために、リーン・ローンチパッド・クラスを教えています。私たちはこれまでに2つの部隊に教えました。最初の部隊は21チームで、2011年の12月に終了し、もう一つの部隊は24チームで、2012年の5月に終了しました。今年の7月からは、さらに50チーム、10月からは別の50チームを教えます。各チームは、主任研究員(PI)、アントレプレナー・リードとメンターの計3人で構成されます。

 主任研究員(平均年齢は約45歳)は、終身在職権を持っている教授であり、自身の研究室を運営、過去5年以内にNSFから資金を供与されています。自身の研究室の大学院生の一人をアントレプレナー・リードとして選び、チームを構成します。

 アントレプレナー・リードは、大学院生か博士号を取得済みの学生(平均年齢は約28歳)で、主任研究員の研究室で働いています。I-Corpsから営利企業が生まれるとすれば、このアントレプルナー・リードが新しい企業で重要な役割を果たすことになるでしょう。典型的なケースでは、主任研究員は大学に残り、新しい企業にはアドバイザーとして参加します。

 メンター(平均年齢は約50歳)は、大学の近くに居住している経験のあるアントレプレナーであり、大学の研究所からテクノロジーを企業化した経験のある人たちです。過去に一緒に働いたことがあって主任研究員から推薦されるか、NSFのI-Corpsのメンターネットワークの一員です。メンターによっては、I-Corpsクラスから新しく興されたスタートアップ企業に、積極的に参加するかも知れません。

SF I-Corpsクラスの目標

 NSF I-Corpsのリーン・ローンチパッド・クラスは、大学やインキュベーターで教えているリーン・ローンチパッド・クラスと目的が異なります。大学のリーン・ローンチパッド・クラスでは、学生が今後のキャリア(職歴)で継続して使える手法を教えます。インキュベーターのリーン・ローンチパッドでは、エンジェル投資家やベンチャーキャピタル(VC)が資金を出すスタートアップ企業を開拓します。

 大学やインキュベーターのクラスと違って、NSF I-Corpsの目標は、テクノロジーを大学の研究所から営利事業にどのように移行すればいいのかを教えることです。成功すれば、スタートアップ企業やパテント取得、米国企業への技術ライセンスといった成果が得られます。

 政府関連の団体の多くは、技術達成レベルをプロジェクトの完成度を測る尺度に使いますが、事業成熟度レベルを測る尺度はありません。NSF I-Corpsクラスの成果が、その尺度の代わりになるでしょう。

 NSF I-Corpsは、勝者や敗者を選ぶものではありません。政府の資金で民間の資金を代替するものでもありません。その目的は、米国政府が既に資金援助した研究を、民間資金が興味を持つ段階に進むところまで教育することです。このため、私たちは経験のあるVCと共にクラスを教えています。

教える目的

 主任研究員とアントレプレナー・リードのほとんどは、スタートアップ企業の経験がありません。そしてメンターのほとんどは、ビジネスモデル・デザインや顧客開発に関する知識がありません。

 そこで、I-Corpsクラスで教える目的は、以下のようなものになります。

1)各チームに、ビジネスモデルのすべての要素(顧客、流通チャネル、獲得/維持/成長、収入モデル、パートナー、必要資源、種々の活動、経費)を説明し、成功する企業とは、彼らが持っている技術や発明以上のものであることを学び、理解するように促すこと

2)各チームが研究室の外に出て、彼らの仮説を見込み客で検証すること。最初のI-Corpsの各チームは、平均80件の顧客とミーティングしました。次のI-Corpsのチームは、平均100件の顧客とミーティングしました

3)各チームに、自分たちのアイデアを商用化したいと思わせること。彼らを将来の成功に導くための最上の指針は、以下の2つでした。a)拡張可能なビジネスモデルを見つけた、b)新しい企業を創業することに興味を持った、c)追加の資金調達をしようとした

手法

 NSFは、全米大学発明革新者連合(NCIIA:National Collegiate Inventors and Innovators Alliance)と協力して、クラスが始まる前に学生は何を知っていたかという基準値を定め、クラスの修了後に調査を行いました。

 私がスタンフォード大学やカリフォルニア州立大学バークレー校、コロンビア大学の学生たちに教えた経験から、このクラスはスタートアップ企業のすべての側面を教えるのに有効だと分かりました。それでは、同じ教え方は大学の研究員たちにも適用できるのでしょうか。

 私たちが発見したのは、以下のようなことです。