途上国の急激な経済発展は、日本にとって大きな脅威となっている。このため、今まで日本経済を牽引してきた、名だたる企業までもが、ライバル企業と統合し、または途上国企業の資本を受け入れるなど、なりふり構わない生き残り策に取り組んでいる。

 このような環境では、成果の出にくい事業や社員はリストラの対象となり、現場も生き残りをかけて殺伐としがちだ。そんななかで個々の従業員は日々メンタルシック(心の病)に侵される不安と闘っている。

土地バブル崩壊を機に変質した会社と従業員の関係

 振り返れば、日本経済が成長を続けていた頃(1980年代まで)は、企業は社会のために存在し、終身雇用制度が人々の生活を安定させ、社員旅行や運動会は人々のきずなを深めていた。

 ところが、1990年頃の土地バブル崩壊後の金融機関の破綻によって、一気呵成に米国型の資本主義経済(自由主義経済)が日本にも浸透していった。株主の意向を重視し、社員の雇用を軽視する経営者の台頭もその1つの表れである。その背景として、日本企業は銀行からではなく、投資家から資金を調達するようになったことが挙げられるだろう。

 業績が悪化すると、経営者は最大の固定費である人件費が削る。すると新聞は「○○企業○万人削減」とそれと報じ、「素早く手を打った」は株主は経営者を高く評価して株価が上向く。

図●就活に失敗し自殺する若者急増…4年で2.5倍に<br>出典:2012年5月9日付 日本経済新聞
図●就活に失敗し自殺する若者急増…4年で2.5倍に
出典:2012年5月9日付 日本経済新聞
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 さらに経営者は正社員の新規雇用にも慎重になった。その一方で、赤字国家の財政では社会保障制度は一向に改善されず、平成24年版自殺対策白書によれば、最近では雇用対策の遅れから、就活に失敗した若者達の自殺者さえも急増している。同白書の「職業別の自殺者数の推移」を見ると、学生・生徒の自殺者数は1992年以降増加が続いているうえ、「原因・動機別の自殺者数の推移」では「20歳代以下の若者の『就職失敗』による自殺者数が平成21年(2009年)を境に急増している」と報告されており、マスコミでもこの内容が報じられた()。

 本当に米国型資本主義の企業経営が最も効率的で、日本国民のためになっているのだろうか?米国ではメンタルヘルス障害の年間有病率が日本の8倍以上だと言う報告もなされている(ウオールストリートジャーナル 2007年7月13日付の報道)。また、高止まりの失業率と貧富の差が国民の不満を増長させている。 

 日本の経営者は本当に米国型マネジメントをなぞっていてよいのだろうか。アメリカの後を追って、今以上にメンタルシック(心の病)が増え、家庭も職場もそして日本経済も、ダメになってしまうのではないかと不安が募る。