迅速かつ柔軟な開発を目指したアジャイル開発手法を採用する企業が増えている。この連載では、アジャイル開発を主導する「賢者」に開発の極意を聞く。登場するのは前回に続いて、「リーンソフトウエア開発」を提唱するメアリー・ポッペンディーク氏とトム・ポッペンディーク氏である。

 ポッペンディーク夫妻はインタビューで繰り返し、「正しいものを作る」ことが大切だと主張していた。「正しいもの」は、時々刻々と変化するビジネスニーズを満たしてこそ、初めて生まれる。そのためにはソフトウエア開発にとどまらず、システム、さらに思考へとリーンの考え方を広げていく必要があると、ポッペンディーク夫妻は語る。(聞き手は河村 博文=シーアイアンドティー・パシフィック ソリューションマネージャー)


私たち(シーアイアンドティー・パシフィック)はリーンやアジャイルなどの手法を使った開発アウトソーシングサービスを提供しています。アウトソーシングでリーンやアジャイルを採用することについて、どう思いますか。

写真●メアリー・ポッペンディーク氏
メアリー・ポッペンディーク氏

メアリー:アウトソーシングよりも、パートナーの観点から考えたほうがよいと思います。例を挙げましょう。

 あらゆる製造業はサプライチェーンを持っています。自動車メーカー1社で、全てを賄うなんて、到底困難です。様々な部品を供給してくれるパートナー企業が必要になります。トヨタであれば、5社から10社の最重要ベンダーと緊密に連携しているわけです。これらのパートナー企業とチームを結成し、新車を市場に投入しているのです。

 サプライチェーン総体の強さこそが会社の強さである。このことをトヨタは理解しています。だからこそサプライチェーンが一体となり、互いに協調して非常に建設的に機能する仕組みを作り上げてきたのです。

すべての企業が良好なパートナーシップを結ぶべき

 アウトソーシングは通常、「丸投げ」を意味しますよね。これは間違った考え方です。重要なスキルを持つ企業とパートナーシップを結び、良好な関係を築いて、相手の仕事を支えるスキルも磨く、というのが正しい考え方です。

 他の企業とパートナーシップを結ぶことは不可欠だと思います。全ての企業が他社と良好なパートナーシップを結ぶ方法を模索すべきです。賢い会社は慎重に、かつ上手にパートナーを選びます。その結果、自社とその先にいる顧客を大事にしてくれるパートナーを獲得しているわけです。

 ソフトウエア開発に関する技術的な手助けを求めている企業にとっては、独自の方法でリーンやアジャイルのコンセプトを実践している会社は、良いパートナーになり得るでしょうね。

なるほど。大切なのはパートナーになることなんですね。

メアリー:そう、言われたことをやるだけでは駄目です。パートナーとして相手の成功を手助けしなければいけません。

パートナーになれば、顧客と価値を共有できるようになります。

メアリー:そのとおりです。顧客が成功すれば、自分(パートナー)も成功できます。成功を共有するのですから。