キヤノンは、仮想的な物体があたかも目の前にあるかのように体感できる「MR(Mixed Reality)システム」を商用化した。CADデータを基に試作品を再現できる(写真)。製品の試作回数を減らすことができ、開発にかかるコストや期間の削減が見込めるという。

写真●キヤノンが商用化したMR(Mixed Reality)システムの利用例
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 3次元データの利用が進む製造業や建設業の大手企業を中心に売り込む。キヤノンがHMD(頭部装着型ディスプレー)、キヤノンITソリューションズがソフトを開発。キヤノンマーケティングジャパンのほか、CADソフトを扱う電通国際情報サービス、仮想現実関連の製品を扱う極東貿易や旭エレクトロニクスが販売する。今年中に米国でも発売する。

 MRは現実世界と仮想世界を融合して体感できる技術。現実をベースに仮想的な物体を追加するAR(拡張現実)や、仮想空間をベースに現実の物体を追加するAV(Augmented Virtuality)もMRの一種である。キヤノンは15年をかけてMR技術を開発。フィールドテストを重ねた結果、実需要が見込める段階になったとみて製品化に踏み切った。

 MRシステムはHMDの位置や角度を基に、利用者の目に映るはずの仮想物体の3次元CGをリアルタイムで描写。これをHMD前面のカメラが捉えた現実の映像に重ねて表示する。操作する人間の手を認識し、仮想物体の手前に表示する機能もある。

 キヤノンのMR技術は、目印となるマーカーが現実空間になくても使える点が特徴だ。HMDの位置や角度は周囲に設置したモーションキャプチャー用センサーで捉える。マーカーを内蔵カメラの視野に捉え続ける必要がないので、しゃがんで車体の裏側をのぞく、といった使い方も可能だ。モーションキャプチャー装置を使わない場合は、マーカーや内蔵したジャイロセンサーなどを利用できる。

 現状のMRシステムは、表面の光沢など物体の質感までは表現できないという課題がある。HMDの動きに合わせて素早く3次元CGを描画することを優先したためだ。3次元画像処理の速度を高めるなどの工夫で、質感を再現した3次元CGの実現を目指す。

 一般的な3次元CADデータと連携するインタフェースも用意する。価格は1000万~3000万円を想定している。