筆者は仕事柄、海外の同僚と一緒に業務を行うことが頻繁にある。特にソーシャルメディアがコミュニケーション施策において積極的に活用されるようになってきて、その業務の中身も変わってきていると感じることが多々ある。今回は、特に海外が絡んでくる場合におけるソーシャルメディアを使ったコミュニケーションについて考えてみたい。

 デジタル技術によるインフラの発達、さらにソーシャルメディアの普及に伴って、コミュニケーション活動が、ある意味でボーダーレスなものになってきている。もちろん言語の壁は存在するが、逆に言えば言語の問題さえクリアすれば、そのコミュニケーションの範囲は、国や文化を越える形で大きく広がるはずだ。

本社の方針でグローバル展開することが困難に

 特に、グローバルにビジネスを展開する外資系企業において、ワールドワイドなコミュニケーション活動を実施するためのツールとしてのソーシャルメディア活用は、いまや必須のものとなりつつあると感じている。こうした状況の中、実際にグローバルな形でソーシャルメディアを活用している企業においては、そのコミュニケーション戦略の立案や、実践におけるやり方が少しずつ変わってきている。

 これまで、グローバルな形でコミュニケーションを展開している企業の場合(特に外資系企業で顕著)、まず本社で戦略からフレームワーク、そしてメッセージやクリエイティブなど全てを、いわばガチガチの形で組み上げる。それを他国に対してきちんと展開するケース、いわゆる「centralize」された形がほとんどだった。だが、こういった「centralize」されたやり方が、特にソーシャルメディアが活発に利用されてくる中で、徐々に変わってきていると言ってもいいだろう。

 その背景には「コントロールできない領域が増えてきた」ことがある。たとえば、ソーシャルメディアが広く使われるようになったことで、ローコストで、顧客とダイレクトにコミュニケーションがとれる場が増加したり、コミュニケーション活動において“リアルタイム性”を伴うものが増加したりしている。つまり「centralize」された形で世界中で展開されるコミュニケーション活動をコントロールするには、あまりにも時間と手間がかかり過ぎるようになってきている。

地域による差が大きいユーザーの行動パターン

 そして、何よりも顧客とダイレクトにコミュニケーションを取る機会が増えることで、類型化されたパターンだけではコミュニケーションをうまくとることができない状況も発生している。それこそ会話の内容が人それぞれ異なるのはもちろんのこと、国や地域が変われば、そこで多く利用されているソーシャルメディアも異なってくるし、さらに、その中にいるユーザーの行動パターンまで大きく異なってくる。

 Facebookを見ても、言語や文化の違いによって、そのユーザーの反応が顕著に変わる傾向がある。同じような内容のポストを世界中で(もちろん言語は変えた上で)展開してみたところ、少なくとも国/言語/人種によって、三つのグループに反応が分かれた。

 具体的には、ポストに対して積極的にコメントを残し、会話が自然発生するグループがある。続いてコメントはそれほど多く残していくことはないが、「いいね!」をたくさん残していくグループもある。そしてコメントも「いいね!」も残さないが、ポストに記されているURLを多くクリックするグループもあった。ちなみに日本のユーザーは3番目、つまりURLを多くクリックするグループに含まれる傾向が高い。

グローバルな大方針にしたがってローカルに活動する

 このような違いが明らかになってくると、なかなか本社から「centralize」された形で統一されたコミュニケーションをとること自体が難しい。そのため、グローバルな形でコミュニケーションを展開している企業が、特にソーシャルメディアを使ってコミュニケーションを行う際には、「グローバル」と「ローカル」の領域を明確にし、「ローカル」単位でコントロールする部分を増やしていく流れが出てきている。

 具体的には、キーとなる戦略、大まかなコミュニケーションのフレームワーク、そしてキーとなるメッセージといってものは、「グローバル」のものとして「centralize」させる。その上で、各マーケットのインサイト、戦略のディテールおよび詳細なフレームワーク、そしてマーケットに合わせてターゲッティングしたメッセージなどを考え、これらを「ローカル」側に実践させるというやり方になる。

 こういう形になってくると、もちろん「ローカル」単位で動く部分が多くなる。だが、きちんと「グローバル」で「コミュニケーションマニュアル」に相当するものを用意し、適切なトレーニングを行うことで、グローバルにある程度の統一感を保てる。これは、いわゆる「ソーシャルメディアポリシー」や「ガイドライン」として、特にソーシャルメディアを使ってリアルタイム性を伴ったコミュニケーションをするための、必要最低限のお約束事を記しておく形になっている。その上で、基本的なコミュニケーションは「ローカル」単位でコントロールするということを前提とした作りになっている。

 このような形で国や地域ごとに、さらに言い換えればターゲットごとに、そのコミュニケーションのアプローチ方法にも柔軟性を持たせるというケースが、今後も増えてくるだろう。

熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)
リーバイ・ストラウス ジャパン デジタルマーケティングマネージャー
熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)1974年生まれ。プロミュージシャンからエンジニア、プロダクトマネージャー、オンライン媒体編集長などを経て、マイクロソフトに入社。企業サイト運営とソーシャルメディアマーケティング戦略をリードする。その後PR代理店バーソン・マーステラでリードデジタルストラテジストを務め、2011年12月よりリーバイ・ストラウス ジャパンにてデジタルマーケティングマネージャーとなる。