ドワンゴの代表取締役会長 川上量生氏へのインタビュー後半は、同氏のビジネスについての考え方などにも及んだ。「ビジネスのうえで一番重要なのは競争しないこと」「エンジニアには企画をさせたい」「うちのやることってあんまり理解されないので、みんなまねしてくれない」など様々な発言が飛び出すなか、引き続き川上会長にニコニコを取り巻く状況を聞く。

(聞き手は大谷 晃司=ITpro


前編から続く

テレビへの展開など率直に言って、どうやってもうけていくのでしょうか。

ドワンゴ 代表取締役会長 川上量生氏
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 うち、お金のことは基本的に考えないんですよ(笑)。今のネットってどうやってもうけるんですか? 広告モデルですか? じゃあ、関連広告を貼ったらいくらもうかるんですか? という話になってしまいますよね。Webサービスで当ててもうけるのは、難しい時代なんです。もちろんビジネスサイドでは考えている人はいますし。少ないけれどもビジネスを考えながら物づくりをやっているエンジニアもいますよ。

 自前で広告媒体として成長させようと思ったら、一体どこまで大きくしないといけないのか、といったことがありますよね。最低でも「ニコ動」クラスのものをやらないと、単体の広告メディアという視点の勝負に立てないわけです。それ以下になっちゃうと、数十人程度の会社を維持する売り上げは立つかもしれないけれども、広告モデルで売り上げをつくるのって無理ですよね。課金モデルをつくるのも相当難しいですよね。

 「ニコ動」ってそこそこヒットしたサービスだと思うんですけど、それでもまだ年間で100億円程度の売り上げにしかならないんですよ。僕らの着メロビジネスの感覚だと、「ニコ動」ぐらいの規模のサービスをやっていたら年間の売り上げが500億円ぐらいはないと納得がいかない(笑)。

2700万超という登録ユーザー規模から見ても。

 ええ、納得いかないですよ。もっとあってもいいんじゃないかと思いますが、現実にはその程度です。そう考えると、新しいサービスを“もうけることと関連して作る”、ということ自体がナンセンスとしか思えないんですよね。もうけるのだとしたら、その部分はもっと大きなところでもうけるモデルをつくるべきであって、サービスはサービスで面白さ優先でやった方が、全体の効率は上がる、と僕は思っているんですよ。もうけるときはもうけられるところで考えたらいいんですよ。

ニコニコ動画は既にプラットフォームとして、関連ビジネスが広がっています。

 やっぱり「ニコ動」は面白いんです。「ニコ動」のエコシステムがどう大きくなるかということに対して僕は興味があるんですよ。このモデルで成功して、大きな経済圏が果たしてできるのかということに興味があって、それって僕がどうにかしてできるといった話じゃないと思うんですよ。僕らは実験をやっているわけです、これとこれをやったら何が起こるなという。多分こうなるんじゃないかな、と思ってやっているわけだけど、努力してその化学反応が起こるわけじゃなくて、多分その結果はもう決まっているんですよね。僕はその結果を知りたいだけ。

その結果を知りたいために“ネタ”をたくさん投入している。

 これをやったらどうなるだろうって。もちろん、これは可能性があるんじゃないかな、ということを僕の中の仮説があってやっているわけだけど、それが本当かどうかはやってみないと分からない。

「ニコファーレ」について聞かせてください(4回参照)。採算度外視でやっていると伺ったのですがうまく回っているのでしょうか。

2012年6月26日にニコファーレで開催されたイベントの様子(写真はドワンゴ提供)
2012年6月26日にニコファーレで開催されたイベントの様子
新システムを使い、リアルのステージ上に仮想キャラクターが立ち、PCで見ている視聴者にはAR(拡張現実)によるライブ映像が見える(写真はドワンゴ提供)
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 全然大丈夫です。多くのIT企業がテレビCMを投入していますが、その費用対効果ってどうなのと言ったら、明らかに「ニコニコ超会議」や「ニコファーレ」よりも低いと思いますよ。ある程度サービスが大きくなって、特にマスプロモーションをやり始めたら、最も採算とか効率性が悪くなるのはプロモーション費だと思うんですよね。

 どのようにして効率的なプロモーションができるエンジンを作るか、というのがすごく重要だと思うんですよね。ある程度、大きくなったマスサービスが、さらにユーザーを増やすには、プロモーション費をどう使うのか、どう効率よく使うのかが問題だと思うので。

その一つが「ニコファーレ」であり、「ニコニコ超会議」であると。

 そうです。

ドワンゴも着メロではテレビCMをしていましたよね。

 今でもやっていますけどね。もともとテレビを使ってサービスを宣伝するということを大掛かりに始めたのはうちの会社ですから。以前はそういうことをする会社はなかったわけです。「ネットサービスのためにテレビCMをやってどうするんだ」とみんな言っていたわけでしょう。でもそれが有効なことをうちの会社が示した。ただ、急激に効果は少なくなっていくんですよ。手を代え品を代え、どうやってプロモーションしていくのかというノウハウを作ることが重要ですね。