「ユーザーの中心は20代」「家電への進出」「ネットとリアルを融合」――。ニコニコ動画を軸に数々のサービスを展開するドワンゴは、今後こうしたキーワードとともにどこに向かっていくのか。稀有なWebサービスを展開するネット企業を創業した同社代表取締役会長の川上量生氏に、ニコニコの置かれている状況、今後の展開などを聞いた。

(聞き手は大谷 晃司=ITpro


ニコニコ動画の新バージョン「Zero」(第2回参照)のテーマは「原点回帰」だと聞いています。その意図を教えてください。

ドワンゴ 代表取締役会長 川上量生氏
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 まず「ニコ動」というのは、もともとほとんどの要素が“ネタ”で成り立っていて、タグなんかも含めてすべての要素が“ネタ”となってみんなが遊べる。そういうものとして登場したんですけれども、そのうち広告が入るようになるなど、ちょっと普通のサイトに近づいてきているな、というのが、僕の中の危機感としてあったんですよね。

 昔は「何が起こるか分からないからニコニコ動画を見ておかないと」という感覚があったわけですよ。今はその要素って事故ぐらいしか残ってなくて、何が起こるか分からないという感じがだんだん減ってきた。それを「Zero」でもう1回、何が起こるか分からないサービスにしよう、というのが意図ですよね。

ニコニコ動画自体が権威化しているというか、以前とはイメージが変わってきているように感じます。

 権威化しているというか、そこは僕らの演出不足もあると思うんですけど、僕らにとってみると例えば「ニコ動」に政治家が出るというのは“ネタ”なわけですよ(笑)。やっぱりなんとなく違和感があるじゃないですか。

 僕は権威化したとはまったく思ってなくて、ユーザーの受け取り方がだんだん変わっていってしまうことに対してどう対応していくのか、という問題があるんですよ。僕らが“ネタ”だと思っていることでも、だんだん“ネタ”にならなくなる。

 例えばドワンゴでも最初、僕が社長から会長になったのもある意味“ネタ”として捉えられていたわけですよ。みんな面白がって、それまで「川上さん」と呼んでいた人が「会長」と呼び始めたんですよね。ドワンゴの社員にとっては、僕が会長ということ自体、お笑いでしかなかったにもかかわらず、それ以後入ってきた新入社員はそれを“ネタ”だと思わず、普通に会長だと思っているわけですよ(笑)。

 それと同じようなことが「ニコ動」では起こっているんですよね。これは解決が非常に難しい問題です。ただ、僕らが今回「原点回帰」で変えたかったことは、例えば、昔は「ニコ動」のトップページの更新間隔が30秒だったのが、一時期10分更新くらいなって、いくらリロードしてもトップページがなかなか変わらない状況とかね。そういうリアルタイム性が減っている点で、いつの間にか「ニコ動」にあった活気が、ユーザーに伝わりにくいサイトになってしまっていた。そこはもう1回変えよう、というのが狙いです。

登録ユーザーは20代が最も多い(第1回参照)。ということはニコニコ動画の当初のような活気を知らないユーザーも多いと思いますが、「Zero」はそれを伝える。

ニコニコ動画:Zeroの新視聴ページ「ZeroWatch」
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 そうです。サイトのリアルタイム性が非常に向上し、動画プレーヤーも変わった。今のところ評判が悪いんですけど、まあ、大体そういうものなので(笑)。その動画プレーヤーというのは、動画の周りに四方八方からいろいろな要素が降ってくるように作ってあるんですね。ユーザーはこれで今度はどういうふうに遊んでいくのか、そんな要素があるのが「Zero」ですよね。

現在はプレミアム会員だけに提供していますが、それば試用期間とかテクノロジーの問題があってのことなのでしょうか。

 いや、それは完全にユーザーへのペネトレーション(浸透)の問題ですよね。徐々に慣れていただいて、慣れてきた段階で変えようと思っているんですけれども、ただ今回のインタフェースは本当に変わっているので、あそこまで変えるとやっぱりユーザーの反発は大きいんですよね。だから時間は相当長く取ろうと思っています。

評判は悪くても、まずは形を見せてスタートさせるという方法論は(新規事業立ち上げの方法論である)リーン・スタートアップに近いような感じを受けますが。

 いや、リーン・スタートアップって経済的な問題だと思っていて、例えば広告をベースにしたビジネスモデルを考えた場合、それでWebサービスが作れるぐらいまでサービスを拡大するのって相当難しいですよね。もともとお金をかけたら今のベンチャーはつぶれるわけですよ。だからその分、お金を集めてバーニングタイムの間にイグジットするというのが今までのITベンチャーのモデルだったと思うんですね。