ニコニコ動画の視聴環境として真っ先に挙げられるのがパソコンだ。だが、今後はあらゆるデバイスがネットワークにつながるようになり、パソコンは必ずしも多数派ではなくなる。そんななか、ニコニコ動画をテレビなど家電製品で利用するための取り組みを進めているのがドワンゴの100%子会社であるキテラスだ。キテラスの代表取締役社長に就任したのは、ニコニコ動画の実質開発総指揮を務めていた鈴木慎之介氏。鈴木氏にキテラスの目指すものを聞いた。

(聞き手は大谷 晃司=ITpro


ドワンゴとキテラスの関係や役割分担を教えてください。

キテラス代表取締役社長の鈴木慎之介氏
キテラス代表取締役社長の鈴木慎之介氏

 キテラスはドワンゴの100%出資子会社です。私はキテラスを設立する直前は、(ドワンゴの)ニコニコ事業本部のコンシューマーエレクトロニクス事業部というところで部長をしていました。コンシューマーエレクトロニクス、つまりゲームやテレビに「ニコニコ」を対応させるという仕事です。昨年暮れにコンシューマー事業をもう少し推進して、私がより自由に責任を持って動ける体制を作った方がいいだろうという話が持ち上がりました。

 もう一つはエンジニアの獲得です。もう少し獲得にドライブをかけたいという気持ちがありました。どういうことかというと、今、多いのはWebエンジニアですが、例えばテレビだったりゲーム機だったりというのは、Webエンジニアのスキルとは、ちょっと異なるスキルが必要になります。

 具体的に言うとC言語を扱うエンジニアを獲得していく必要がありました。また、そうしたエンジニアに対するマネジメントが、別に必要になるだろうということもありました。そこで別の箱を用意してエンジニアを採用することで、よりスキルを“とがらせる”ことをやっていきたいと考えていました。こうした理由から分社化を決めました。

ドワンゴ自身がC言語を扱うエンジニアを採用してWebエンジニアと融合するのではなく、あえて分離して“とがらせる”ということですか。

 そうですね。違った会社を作ることで、例えば制度などをかなり自由にいじれるんですよね。例えばエンジニアの働き方は個々人で結構違うと思うんですよ、働く時間帯だったり、そのライフスタイルだったり。今のドワンゴは結構規模も大きくなったので、そうした個々人に合わせた仕組みづくりや環境を変えることはちょっと難しくなっています。そのため、私がトップになって自由に仕組み作りをするとなると、分社化が一番効率がいいんですよね。

ニコニコのサービスの思想的なもの、ベースの部分を(ドワンゴとキテラスで)お互いどのようにして共有するのでしょうか。鈴木さんがいるからできる前提なのでしょうか。

 私が「ニコ動」を最初からやってきたので、基本思想みたいなところはメンバーに対してきちんと言えていますし、弊社の取締役を見れば分かると思いますが、(ドワンゴ創業者で会長の)川上が入っていますよね。

 いわゆるキープレーヤーにも参画してもらい、今後の「ニコニコ」はこうなるということを日々言ってもらうことで、「ニコニコ」に対する基本的なスタンスは共有できる体制にしています。

今、マルチデバイスを考えると、まずはモバイルに目が行くかと思います。そこであえてテレビに注目した理由はどこにあるのでしょうか。

 今々はまずはテレビから取り組んだということです。「ニコニコ」は出口を選ばないという基本思想を私自身持っています。

 動画コンテンツを見るときに、パソコンとかモバイル端末は個人に対して働き掛ける作用があるんですよね。要は1対1で画面に向き合って、自分が面白いと思う動画を一人で見るスタイルになると思います。ただし、それは今までの「ニコニコ」であって、新しい「ニコニコ」をつくるに当たっては、やっぱりみんなで見て楽しむ文化にしたいんですよね。