ニコニコ動画改めniconico――。2012年5月1日、ドワンゴが企画・開発し、ニワンゴが提供する動画配信・共有サービス「ニコニコ動画」の次期バージョン「Zero」がスタートした。大幅に視聴ページのユーザーインタフェースを作り変え、サービス開始以来の総称だった「ニコニコ動画」を「niconico」に変更するなど、同社にとって2006年のサービス開始以来の大掛かりなバージョンアップとなった。当初「Zero」は有料の「ニコニコプレミアム会員」限定のサービスとなるが、いずれは一般の登録会員にも展開する。

 こうした大掛かりなバージョンアップの背景には何があったのか。

ITproがニコニコ動画に注目する理由

 ニコニコ動画に関する数字を見ていくと、それらが浮かび上がってくる。だがまずはその前に、なぜITproが特集としてニコニコ動画を取り上げるのかを説明したい。

 その理由は3点に集約できる。

その1、エンジニア中心の会社

 ドワンゴ代表取締役会長の川上量生氏自身、同社を創業するに当たって「エンジニア中心の会社を作ろうという思いが最初からあった」と述べる(川上会長へのインタビューは第5回、第6回に掲載)。ITエンジニアの読者が多いITproとしては、エンジニアを重視するドワンゴが、その主要サービスを大きく変えようとする理由をその背景を含めて押さえておきたい。

その2、日本の20代人口の8割超が会員登録

 ニコニコ動画の登録会員数は4月末時点で2725万人。この数字は国外の会員を含めた数字ではあるが、同社によるとそのほとんどは国内の会員だという。国内で展開する動画配信サービスとしては最大規模といっていいだろう。ニコニコ動画はプラットフォーム化しており、同社が他のサービスを展開するうえでもそれらのベースになっている。各種サービスを展開したり、企画したりするうえで、こうした状況はぜひ知っておきたい。

写真1●ニコニコ動画の世界をリアルなライブの場にもたらす「ニコファーレ」
写真1●ニコニコ動画の世界をリアルなライブの場にもたらす「ニコファーレ」
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その3、Webサービスを提供する企業でありながら“リアル”も重視

 同社はネットで完結するサービスだけでなく、自らライブハウスやスタジオを運営し(写真1)、実際に人が集まるイベントを企画し、ネットの中で生まれたユーザー体験やその中で醸成された雰囲気を、リアルの場にフィードバックするといった試みを積極的に行っている。他社が追随できない、もしくは追随しない分野を自ら切り開く姿勢は、新サービスを考えるうえで興味深いはずだ。

 以下ではもう少し詳しく、ニコニコに関連する数字を見ていこう。

登録会員数は大手量販店ポイントカード会員数にも匹敵

 ドワンゴの従業員数は単独で565人、連結では1065人で、平均年齢は31.2歳と“若い”企業である(2012年6月15日現在)。東証一部上場企業である同社の2012年9月期第2四半期の連結業績(2011年10月1日~2011年3月31日)は、売上高182億9300万円、営業利益8億2700万円、四半期純利益は4億8400万円と堅調。内訳をみると、業績が急上昇しているのがニコニコの各サービスを含むポータル事業である。同セグメントの売上高は65億9500万円で対前年同期比45.2%増だ。有料の「ニコニコプレミアム会員」の増加などが貢献しているという。

 このプレミアム会員を含めた登録会員数は2011年12月末には2500万人を突破。その後も伸び続け、2012年3月末時点で2648万人、4月末時点では2725万人だ。前述のようにこれらの数字は国外の会員を含めたものである。同社は国内のみの会員数を公表していないが、同社によると2725万人のほとんどは国内の会員と考えてよいという。

 約2700万人とすると、この規模感は国内携帯電話事業者3位のソフトバンクモバイルや、大手量販店であるヤマダ電機のポイントカード会員数などに匹敵する。例えばソフトバンクモバイルの加入数は2012年5月末時点で2947万9800件。大手家電量販店であるヤマダ電機のポイントカード会員や「ケイタイde安心会員」など直近1年間で同店を利用した実稼働会員数は2350万人だという。同社が多くのチャレンジができる背景の一つには、こうした会員数の多さがある。

 ニコニコ動画の登録会員数の内訳をみると、有料の「ニコニコプレミアム会員」は2012年3月末時点で159万人、携帯電話から利用する「ニコニコモバイル会員」は737万人である。ニコニコプレミアム会員は登録会員全体の6%に過ぎないが、前述の通り、登録会員の増加とともに増えており、売上に貢献し始めている状況だ。