コンサルティングファームやシンクタンクの生業である「知識サービス」の方法論を、野村総合研究所で40年にわたりこの分野で活躍した著者が解説する。知識サービス産業の歴史から経営モデル、価格決定の方法まで網羅する内容だが、必ずしも業界関係者に限った本ではない。「ホワイトカラーの仕事のほとんどは広義の知識サービス」と著者が言う通り、私はシステム構築の現場でも活用できると感じた。

 技法でなく「作法」「骨法」としたのは著者の意図がある。本書は問題解決の近道を見つけるなど特定の手法は紹介しない。「知識サービスを業として提供する際のあるべき姿を示す」という立場を「作法」という言葉に込めた。この作法を基に、知識サービスの根本や枠組みの結晶化を試みたものが「骨法」である。

 作法のハイライトが、12段階100ステップに体系化した知識サービスのライフサイクルである。顧客企業への「情報発信」や「引き合い」から始まり、成果物の「知的資産化」で終わる。情報システム部門の立場からは、システムの企画立案や施策の実行などに活用できる内容だ。開発工程に比べて上流工程は属人的だったが、本書のステップで標準化できれば、品質や作業結果のばらつきを抑えやすくなる。

 本書が有益なのは、一連のステップを実行する人材構成モデルや人材の採用・育成を詳しく解説しており、人材マネジメントの重要さも教えてくれることだ。「知識サービスの見える化」「顧客満足の公式」「研究開発の必要性」など、知識サービス業に必要な概念も示唆に富む。知識サービスの収支管理、つまりROI(投資対効果)にも詳しく、IT部門の業務全般にもぜひ導入したい考え方である。

 著者は、米国より圧倒的に規模で劣る日本の知識サービス産業に危機感も抱き、「特にベンチャー精神豊かな経営者や新規参入者に読んでほしい」と訴える。ユーザーの立場からも、世界のフロンティアとなる知識サービスが日本から生まれることを期待したい。

評者:村林 聡
銀行における情報システムの企画・設計・開発に一貫して従事。三和銀行、UFJ銀行を経て、現在は三菱東京UFJ銀行常務執行役員副コーポレートサービス長兼システム部長。
知識サービスマネジメント

知識サービスマネジメント
村上 輝康著
東洋経済新報社発行
2940円(税込)