著者に聞く

 クラウドコンピューティングやオープンソース革命で、IT起業はロケット打ち上げのようなものではなく「ジャスト・ドゥ・イト(やってみよう)」型に変貌した。リース氏は企業の新事業でも同じという。

(聞き手は大豆生田 崇志=日経情報ストラテジー

リーンスタートアップとは。

エリック・リース氏エリック・リース氏
「スタートアップの教訓(Startup Lessons Learn-ed)」というブログを執筆。3社目の起業であるIMVU(インビュー)に共同創業者、CTO(最高技術責任者)として参画した。
写真撮影:村田 和聡

 2004年にメッセンジャーソフトと3Dアバターチャットを手掛けるIMVUを起業した際、とにかく早く開発しようと何とか動くだけの製品を有料で出して一定の顧客を確保した後、頻繁に改訂を繰り返すという方法がうまくいった。

 ベンチャー・キャピタルやソフトウエア業界の専門家らには「そんなやり方はビジネスとして間違っている」とさんざんだったが、なぜ起業がうまくいったのかを分析してみて出会ったのがトヨタ元副社長の故大野耐一氏の著書『トヨタ生産方式』の英訳だった。無駄を発見して体系的になくしていくリーン生産方式にたどりつき、理論として分かってきた。

企業でCIOらが新事業を立ち上げる場合も同じだと。

 企業のCIO(最高情報責任者)の役割は起業家と同様に、顧客や従業員からの変わり続ける要求に応え続けることだ。ある私が出会った巨大銀行の優れたCIOはオンライン・バンキング・システムを提供する際に独自開発を選び、わずか10人でソフトウエアを最初から書き始めてわずか9カ月でオンラインとモバイル版を作り上げた。コストは全部で80万ドルだった。

 ところが彼が出会った他行のCIOは、まずどうシステム更改を進めるか決めるためベンダーに2年間かけて計画させ、さらに外部のコンサルタント2社を雇ってシステムを統合するという具合にどんどん外部の手を加えて、結局トータルのプロジェクトコストは1億ドルに達した。恐らく新システムの稼働までに5年はかかるだろう。それが新しい方法と、これまでの方法との違いだ。新たな方法では費用は安く、顧客にとっても開発チームが毎日のように改良を加えていく方がいいはずだ。こうした判断がCIOにとって重要だ。

新事業のカギは進め方にあると。

 リスクを取って修正を繰り返していけば成功確率を高められる。ただ社内起業のスタートアップで問題になるのは、単にチームを作って彼らに好きなようにやらせれば十分だと考えてしまうことだ。米シリコンバレーでも小さなチームを好きなように作らせても新事業の成功確率は高くない。マネジメントのシステムこそが問題だからだ。

 特に社内で技術革新を起こす際は、イノベーションを自由に行える砂場、いわゆるサンドボックスとなる場所を用意し開発チームと親組織の両方を守り、検証を繰り返す仕組みが必要になる。システムを変えれば誰もが自然に創造性を発揮する。生産ラインの従業員でも起業家になれるような経営者のリーダーシップが21世紀には求められる。

リーンスタートアップ

リーンスタートアップ
エリック・リース著
井口 耕二訳
伊藤 穣一解説
日経BP社発行
1890円(税込)