トヨタ自動車のOBが数多く在籍するオージェイティー・ソリューションズ(名古屋市)が手がける研修「改善眼プログラム」には、リーダーが現場を観察するための目を養う手法がいくつも盛り込まれている。代表的なものは「ビデオ分析」「赤札作戦」「チョコ停観測」である。2011年春に始まった研修に参加している食品メーカーを例に取り、それぞれの勘所を見ていこう。

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図1●改善眼プログラムでビデオ分析の演習をする万城食品の板垣哲也係長。「コピー・ファイリング作業」の映像を見て、解析表に各動作の時間を記す
図1●改善眼プログラムでビデオ分析の演習をする万城食品の板垣哲也係長。「コピー・ファイリング作業」の映像を見て、解析表に各動作の時間を記す

 改善眼プログラムで学ぶ観察手法の筆頭に挙げられるのは、トヨタ伝統のビデオ分析である。改善対象となる現場で働く作業者を撮影し、作業者の動きを時間の流れに沿って見ながら無駄を洗い出す。受講者の1人で、わさびドレッシングなどを製造・販売する万城食品(静岡県三島市)の板垣哲也製造第四課係長は今回、ビデオ分析に初挑戦した(図1)。女性が資料をコピーしてファイルにとじるという映像を見て、女性のそれぞれの動きとかかった時間をタイムレコードを参照しながら「解析表」に1つずつ、秒単位で書き込んでいく。「ファイルから原稿を外す」「コピー機まで移動」「コピー機のカバーを開ける」といった具合だ。時間は数秒のものから1分を超える動作もある。

 大事なのは、女性の一連の動作をストップウオッチで測れるくらいのレベルまで細かく分解して見ていくことだ。人の動作を「手に取る」「運ぶ」「置く」といった要素ごとに分けて観察しようとする目を養う。各動作にかかった時間を測るには、動作を始めた時間(始点)と終えた時間(終点)のタイムレコードを正しく書き取っていかなければならない。観察に対する集中力が求められる。最後に同じ動作の合計時間を算出し、「空歩行」のような無駄な動作の時間を導き出す。

細大漏らさず、定量的に事実をとらえる

 講師を務めるトヨタ出身の近藤刀一研修事業開発部エグゼクティブ・トレーナーは、ビデオ分析のポイントを3つ挙げる。(1)事実と推測を混同しない、(2)細大漏らさずとらえる、(3)定量的に正確にとらえる、である。ビデオに映る人の動作は紛れもない事実だ。その動作を細かく分解して時間を定量的に測るのは「事実をありのままに受け入れる訓練になる」(近藤トレーナー)。目の前に提示された事実は観察者だけでなく、作業者本人を納得させる強力な材料になることも知る。

 ただし注意すべきなのは、細かい動作に気を取られすぎると、今度は現場の大きな流れを見失ってしまうことだ。「木を見て、森も見るという対極的な観察姿勢がリーダーには求められる」(同)。現場でビデオ分析を始める時は「最初に物と情報の流れを大きくつかみ、その後で工程や職場ごとに『人』に焦点を当てて動作を見ていく」。そのうえで人を撮影するアングルを決める。アングルは観察の着眼点にほかならず、手元や足元が撮影対象になることが多いという。

 動作の無駄を理解するのにビデオ分析は有効だが、一方で在庫や設備、棚といった物の無駄を見つける目を養うのに役立つのが赤札作戦である(図2)。これは無駄と思われる物に赤い紙を貼っていく活動で、改善眼プログラムでは5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の一環として学ぶ。