特定の業界に属する企業を集めた最大勢力のコミュニティーを、クラウドで作る。参加当事者の企業のビジネスにはもちろん、外部の企業や顧客に提供するサービスについても魅力を高め、さらなるコラボ拡大へ弾みをつける。そんな好循環を狙ったクラウドコラボも始まっている。

 特定企業が主導するケースと、業界団体が参加企業を募るケースについて、事例を見ていこう。

映画館の座席シェア6割

 前者のケースが、角川グループのネット企業ムビチケが2011年9月に開始した「ムビチケ」だ。映画の電子前売り券を販売する会員制のEC(電子商取引)サイトである(図1)。

図1●映画前売り券のオンライン販売サイト「ムビチケ」開設の経緯。角川メディアハウスなどが出資するムビチケは、クラウドを使って複数の映画興行会社や配給会社が参加する同サイトを開設した。
図1●映画前売り券のオンライン販売サイト「ムビチケ」開設の経緯
角川メディアハウスなどが出資するムビチケは、クラウドを使って複数の映画興行会社や配給会社が参加する同サイトを開設した。
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 ムビチケに参加しているのは、映画の興行会社と配給会社だ。興行会社は角川シネプレックスや松竹マルチプレックスシアターズ、TOHOシネマズなど6社(予定を含む)。日本の映画館の座席数で6割、31万席と、同様なサイトで最大級だ。

 ムビチケが提供するのは、利用者向け機能と興行会社向け機能に分かれる。利用者向けには、電子前売り券の販売や座席予約、映画館の地図表示といった機能を提供する。利用者は、PCやスマートフォンを使って前売り券を購入できる。興行会社向けの機能は、電子前売り券の販売状況のレポート作成や会員データ管理などだ。

 ムビチケの推進力は、座席数シェア6割というカバー率の高さだ。この高シェアを背景に、「これまでのチケットの概念を壊して、映画業界だけでなく他業界の企業へとコラボを広げられる」(事業開発部門システムサービス部の青山大蔵氏)と期待する。例えば衣料品メーカーと手を組んで、商品の購入特典に映画の電子前売り券を無線ICタグの形で付ける。あるいは映画前売り券の購入特典として、原作の電子書籍をオンラインで提供する、といった具合だ。

 ムビチケとコラボする企業にとって、メリットは二つある。一つはビジネスの「場」としての魅力だ。6割という座席数シェアは、それだけ多くの利用者を集める場となる。販促効果を期待してキャンペーンなどを実施する企業が増えれば、それが呼び水となってコラボする興行会社や映画館を増やす、という好循環につながる。