PCがあればいつでもどこでも仕事ができるような、システム開発プロジェクトは増えている。PM(プロジェクトマネジャー)はプロジェクトルームにいるときだけでなく、移動中や外出先でノートPCを使ったり自宅に帰ってからPCを使ったりして、仕事のメールをチェックできる。

 確かに効率的ではあるものの、やっかいな時代になったともいえる。いつでもどこでもPMが仕事をできるということは、しらふの時だけでなく、お酒を飲んだ帰りにメールをチェックする機会も増えるからだ。そんな時にプロジェクトリーダーやメンバーから、問題や手戻りの発生報告といった思わしくない内容のメールが届いていたりするといっぺんに酔いが覚めた、という経験をしたPMは多いと思う。

 このような飲んだ後で、PMは叱責メールを送ってはいけない。最悪の場合、今まで同じプロジェクトでともに歩んできたメンバーが現場から離脱する事態を招きかねないからだ。

飲んだ後に叱責メールを送ったTさんのケース

 SIベンダーに所属するPM、Tさんは典型的な仕事人間だ。会社にいるときはもちろん、外出先にいても家に帰ってからも仕事のことを考えている。それも昼夜問わずだ。

 あるプロジェクトを担当していたときの晩のことだ。ある会合の参加者と飲んだ後、帰りの電車の中で、ノートPCを使ってメールをチェックした。すると、同じSIベンダー所属のプロジェクトリーダー、Jさんから次のようなメールが届いていた。

T課長

本日の打ち合わせで、ユーザー企業のご担当者様から要件定義の成果物の検収時期を1カ月延ばしたいと言われました。ご担当者様は現在非常に忙しい状況で時間が取れないとのことです。このまま検収を受けても、あとで変更が増えることも考えられるので、この要望をお受けしようと思います。よろしいでしょうか。

 これを読んだT課長、「1カ月も延ばしたら、当社の今期決算に間に合わなくなるじゃないか」「相手が忙しくて検収が進んでいないなんて話、聞いてないぞ」「もっと事前に手を打てるはずだったのに、Jは何もしてこなかったのか」「検収をずらしたら、今抱えているメンバーの作業が空いてしまうじゃないか」…。次から次へと疑問と怒りが湧いてきた。

 Tさんは気持ちが高ぶったまま、マシンガンのような速さでメールの本文を打って送信。すると、Jさんからいろいろな言い訳を含めたメールが返ってくる。その文面には、「ユーザー企業のご担当者様には、以前から検収はこの時期でお願いしますと再三言ってはいたのですが、どうしても難しいということでした」「要員は空きが出ないようになんとか調整します」といった内容が含まれていた。

 その内容は、Tさんの気持ちが収まるようなものではなかった。「なんとか調整しますといっても、すぐに具体的な解決策を出せるわけがないだろう」。Tさんはさらにその気持ちをそのまま文面にした叱責メールを送った。それにJさんから言い訳がメールで届く。この繰り返しがTさんが家に着くまで、延々と続いた。

 Tさんが飲んだあとで、Jさんから問題報告メールが届くのは、この1回にとどまらずその後にも、いくたびか起こった。そのたびにTさんは容赦ない内容の叱責メールを送り、Jさんはそれに言い訳をするといったことが繰り返された。

 その結果、ついにJさんが体調不良でプロジェクトルームに出て来られなくなった。病院に行っての診断結果は、IT企業に多いうつ病。結局そのまま退職してしまった。Tさんは表向きには「今どきの若いやつは心が弱い」などと愚痴をこぼした。しかし内心ではJさんがうつ病になって退職してしまったことを深刻に受け止めていた。「酒の勢いに任せてメールを送ってしまったのはいけなかった」と、自らの振る舞いを反省する日々が続いた。