プロジェクトの見える化については本コラムでもたびたび取り上げてきた。見える化により、進捗、課題の状況、リスクの影響度など、プロジェクトの様々な側面を客観的に把握することが可能になる。

 しかし、これらの数字を鵜呑みにしていないだろうか。数字を見せられると、人は思わず納得してしまうことがある。適切な判断を下していくためには、数字をそのまま受け止めるのではなく、一歩立ち止まり、その数字の本質を見極める必要がある。

小林 慶志郎
マネジメントソリューションズ 中小企業診断士


 プロジェクトの「見える化」の取り組みでは、進捗、課題の状況、リスクの影響度など、ややもすると定性的になりがちな情報を一定のルールで数値化し、プロジェクト関係者が客観的な情報をもとに共通認識を持てるようにしていきます。

 一方で、注意しておくべき点もあります。数値には「状況を明確に知ることができる」という利点がある半面、「いかにも正しそうに見える」という罠があるのです。

具体的な数字を示されると弱い

 どういうことか、例を挙げてみます。定性的に「スマートフォンユーザーは男性の方が多い」というよりも、数字を入れて「スマートフォンユーザーは男性が約6割を占めており、女性よりも約335万人多い」と言われたほうが、説得力があるように感じるのではないでしょうか。この情報源や調査方法、発信者すら全く知らなくても、このように具体的な数字を示されると、思わず「正しいだろう」と思いこんでしまうことがあるのです。

 この「いかにも正しそうに見える」という事態は、プロジェクトの現場でも発生します。

 たとえば、進捗会議で「10日間かかる作業を、6日経過していて60%の進捗です」との報告がありました。これは「スケジュール通り」と考えていいでしょうか。

 まずは60%という数値が、何をもとに判断された数値なのか確認する必要があります。「100のタスクを終わらせるうち、6日経過していて60タスクが終わっています」という報告が加わると、さらに「正しそうに見える」度合いが増してきます。

 しかし、残りの40タスクは今までと同じ速度で対応できるのでしょうか。もしかしたら、難易度の高い作業ばかりが残っているかもしれません。あるいは、残りの期間は別の作業を並行して進める必要があり、これまでのように時間を割くことができないかもしれません。こういった点を含めて、「進捗60%」という数字の実態を確認する必要があります。

 数値化されていることに安心し、その数字を「正しそう」と思い込んでしまうことがないように、一つひとつの数字の「裏付けをとる」ことはとても大切です。

「数字」の本質を見抜け

 このように数字には、「正しそうに見え」、人を納得させてしまう力があります。ですので、自分が何かを伝えたいときには有効に利用すべきでしょう。

 その一方で、数字の力が強いからこそ、使う側も慎重になる必要があります。数字を見る側も、その内容をしっかりと見極めていく必要があるのです。

 プロジェクトにおいて重要な意思決定を求められるプロジェクトマネジャとその支援をするPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)として、目の前に出てきた数字の本質を見抜き、適切な判断を下していくことが求められます。


小林 慶志郎(こばやし けいしろう)
マネジメントソリューションズ
 法政大学経営学部卒業後、大和総研に入社。システムエンジニアとして、大手通信事業会社の基幹系システムの基本設計から開発、保守に携わる。2008年、マネジメントソリューションズに入社。PMOソリューションの開発や各種プロジェクトでPMO業務に従事している。2008年、中小企業診断士登録。連絡先は info@mgmtsol.co.jp