「思わず使ってみたくなる、ワクワクするものを作りたかった」─―。
クラリオン マーケティング戦略本部の柿本章雅氏は、同社が2010年6月に発売したカーナビ「NX710/110」2機種にゲーム制作のノウハウを導入した経緯をこう説明する。同社は、ゲーム・クリエーターでもある立命館大学のサイトウ氏らの協力を仰ぎ、CO2排出量を抑える「エコ運転」を促す「エコモード」を開発した。家族全員がエコ運転に関心を持ってもらえるように、NX710/110にゲーム由来の「分かりやすさ」と「楽しさ」を要素として盛り込んだ。
例えばエコ運転を続けると、エコモードのメイン画面内にある木が育っていく(図1)。徐々に葉が増えたり、幹が太くなったりする。逆に急加速など、CO2排出量の増加につながるような運転をすると葉が散ったり、木が小さくなったりする。これで、エコ運転を続けているかどうかが一目で分かる。
エコ運転のレベルを示す代表的な指標も四つに絞り、ユーザーが把握しやすいようにしている。色の使い方にも一貫性を持たせた。CO2排出量抑制などの良い要素には緑系の色を、逆に排出量増加といった悪い要素には青系の色を、それら以外にはオレンジ系の色を用いている。
収集欲を刺激して継続利用を
NX710/110では、エコモードの継続利用を促す仕掛けも施した。代表的なのが、特定の条件を満たしたエコ運転をすれば、それに応じて葉を入手できる機能である。
手に入れた葉を確認する画面では、未収集の葉もあえて表示する。こうした工夫で、ユーザーの収集欲を刺激する。
また、キャラクターを登場させたり、アニメーションを多用したりして、GUIをあたかもゲーム画面のように仕立てた。役割がそれぞれ異なる「ナビック」「ブラックシーオーツー」「博士」という3タイプのキャラクターを登場させることで、ユーザーへの情報提示を分かりやすくしている。
ナビックは主人公で、その動きや表情などで、ユーザーが置かれた状況を伝達する。ブラックシーオーツーは、CO2排出量の増加につながる運転をし過ぎると登場する。すぐに自分の運転が排出量削減に向いていないと分かる。博士はヘルプ機能を担い、操作方法や排出量を抑える運転方法などを教えてくれる。
こうしたキャラクターにユーザーが愛着を持つような演出もある。例えば画面内のナビックに触れると、ナビックがコメントしたり、動いたりする。木が大きく育つと、ナビックが木を見上げるようになるなど、キャラクターの動きも細かく作り込んだ。
安全性の担保に工夫
開発担当者によれば、カーナビというゲーム機とは異なる機器にゲーム制作のノウハウを落とし込むことには苦労があったという。中でも重要なのが、安全性の担保である。
分かりやすくて楽しいGUIを実現すると、ユーザーが走行中に思わずカーナビを見つめてしまう危険性がある。そこで、わき見運転を防止するために、走行中はアニメーションを止めたり、ユーザーが驚かないようにキャラクターが登場するタイミングを調整したりした。
今回のようなエコモードを追加したことで、「プロモーションや店頭において特徴をアピールしやすくなった」(クラリオン広報)という。NX710/110は店頭販売用だけでなく、自動車の標準搭載品としても採用されるなど一定の成果を得た。2011年秋に登場した後継機種にもエコモードが採用され、対応機は3機種に増えた。今後は仕様を変えるなどし、海外向けモデルの展開も視野に入れている。