PCの時代が終わったと考えていますか。

(写真:陶山 勉)

 PCは今後も、恐らく永遠に使われ続けるだろう。しかし、PCが成長する時代は終わった。

 PCはいまだに便利な存在だが、フレキシブルでないことが問題だ。利用シーンは限定的で、見た目も似通っている。PCは本当の“消費者向け製品”ではない。

 いま消費者は、よりフレキシブルな端末を支持している。どこにでも持ち運べて、従来よりも多くのことができる端末だ。スマートフォンやタブレット端末は、そんなフレキシブルな端末の初期の例にすぎない。

ポストPC時代には、タブレット端末やスマホ以外の端末も登場するということですか。

 もちろんだ。私も想像がつかないほど多種多様な端末が、これから続々と登場するだろう。そして、音楽プレイヤーで起きたような変化が、汎用の端末の領域でも起きる。

 音楽の聴き方は「iPod」で一変した。人々は自分のすべての音楽ライブラリーを持ち歩けるようになり、歩きながら音楽を聴いたり、自宅のステレオシステムにiPodを接続して聴いたりと、様々な場所や手段で音楽を楽しめるようになった。

 これと同じことが従来のPCの領域、汎用端末の領域でも起きる。人々は、ごく小さな端末を持ち歩いたり、クラウドを利用したりすることで、自分に必要なすべてのデータを持ち歩けるようになる。そして、テレビやスマホなどディスプレーを備えたあらゆる端末で、データを利用できるようになる。これが私の言うフレキシブルの理想型だ。

もう少し具体的に、どんな端末が登場するのか話して下さい。

 それを説明するのはとても難しい。本当に想像がつかないのだ。

 当社のミッションは「世の中に存在するすべてのモノに、ARMプロセッサを組み込む」というものだ。もしかしたら、トイレにある温水洗浄便座がARMプロセッサを搭載する日が来るかもしれない。そういう意味では、温水洗浄便座も、ポストPC端末の候補の一つだと言えるだろう。それぐらい、常識を超えるポストPC端末が、これから登場するはずだ。

ポストPC端末にとって、最も重要な条件は何でしょうか。

 電源がない場所でも、長時間利用できることだ。だからこそ、消費電力が小さく、バッテリー利用時間を長くできるARMプロセッサが、ポストPC端末のプロセッサとして支持を集めている。

なぜアームは、インテルに比べてプロセッサの消費電力を少なくできているのでしょうか。

 理由は二つある。一つは技術的な問題だ。インテルのプロセッサは伝統的に複雑な構成となっている。それゆえに半導体のサイズが大きくなりやすく、消費電力も多い。

 より重要なのは、もう一つの理由、マインドセット(考え方)の問題だ。インテルは「性能第一」の考え方を持っている。それに対して我々は、「消費電力効率第一」の考え方を持っている。性能を先に考えて、その後に消費電力を下げようとするのはとても難しい。一方、消費電力効率を先に考えて、後から性能を上げようとするのは容易だ。

 現在、我々はARMプロセッサのアーキテクチャーを270社に供給している。その中の20社が、ハイエンドのARMプロセッサを製造できる能力を有している。インテルと米AMDの2社しかいないIA(インテルアーキテクチャ)プロセッサ市場に比べて、ARMプロセッサ市場は競争が激しい。激しい競争の結果、より優れたARMプロセッサが生み出されている。

(聞き手は、中田 敦=日経コンピュータ)

英アーム社長
チューダー・ブラウン氏
英アーム(ARM)設立者の1人。2001年に役員となり、エンジニア・ディレクター兼最高技術責任者(CTO)、グローバル・ディベロップメント担当執行副社長(EVP)、最高執行責任者(COO)などを歴任。2008年から現職。