企業の情報システムには、現場で活用すべき情報が既に十分蓄積してある。適切な端末さえあれば、ビジネス現場における情報活用は一気に活性化する。前回に続き、その具体例をシーン別に見ていこう。

【シーン3】 乗り物

 2012年、ポストPC端末の活用の場は、雲の上にも広がる。全日本空輸(ANA)は2012年4月、同社6000人のキャビンアテンダント(CA)にiPadを配布する。CAは業務マニュアルや電子メールなどを、iPadで閲覧する(写真1)。離着陸時でなければ機内でも活用する。これに先駆け2011年11月から、700人のCAがiPadを先行利用している。

写真1●iPadで業務マニュアルを閲覧するANAのキャビンアテンダント(CA)
(写真:ANA 提供)

 従来のCAの業務マニュアルは紙に印刷してあった。このためCAはA4判1000ページのバインダー4冊を持ち歩く必要があった。実は業務マニュアルは既に電子化してあった。ところが同社で社有のノートPCを持つのは、予算の都合上、機内に1人のチーフパーサーのみ。他のCAは電子データを閲覧する手段がなく、かさばる紙のマニュアルを持ち歩く必要があった。

 ANAは現在、最新鋭旅客機「ボーイング787」を展開中だ。それに伴い、CAが業務マニュアルを参照する頻度は急増している。持ち運びが容易で、業務マニュアルから知りたい情報をすぐに引き出せるiPadは、CAにとって欠かせない存在になり始めている

タクシー車内にタブレット

 神奈川県のタクシー会社、ケイエム国際タクシーは2011年11月、タクシー配車用の情報端末として、NTTドコモのAndroidタブレット端末「GALAXY Tab」を採用した(図1)。同端末には、タクシー配車システムのクライアントソフトがインストールしてあり、ソフトはカーナビゲーションの機能も備える。同端末は本部からの配車指示を3G回線経由で受信して、顧客の居場所までドライバーを案内する。

図1●ケイエム国際タクシーが採用した「GALAXY Tab」の費用メリット
タクシー配車用の情報端末として採用、デジタル無線に比べて大幅なコスト削減を実現した
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 ケイエム国際タクシーはこれまで、配車にアナログ方式のタクシー無線を使っていた。しかしアナログのタクシー無線は、2016年までに廃止される。デジタル無線に移行するためには、数千万円を投資して無線基地局を新設したり、各車両にデジタル無線機や業務用カーナビを導入したりする必要があった。

 そこで同社は、デジタル無線機ではなく3G回線とタブレット端末に移行した。こちらは初期投資がほぼゼロだ。NTTドコモの3G回線を利用するため、無線基地局を独自で用意する必要はない。3G回線利用料込みの契約を結ぶので、GALAXY Tab本体も「非常に安価に購入できた」(ケイエム国際タクシーの長田正人社長)。さらにタクシー配車システムには、日本ユニシスのクラウドサービス「smartaxi( スマートタクシー)」を採用、システムに関する初期投資もかからなかった。