企業の内外には、現場で活用すべき情報が既に十分蓄積してある。適切な端末さえ行き渡れば、ビジネス現場における情報活用は一気に活性化する。その具体的な実例を4種類のシーン別に見ていこう。

【シーン1】 売り場

 福岡県遠賀町にあるディスカウントストア「スーパーセンタートライアル 遠賀店」。この店で働く従業員は必ず、専用のスマートフォンを携帯している。

 写真1がそれだ。ディスカウントストアを運営するトライアルカンパニーが自社開発した業務用のスマホであり、「PACER端末」と呼ぶ。同社は台湾メーカーと交渉して、独自仕様のAndroid端末を作った。一般のスマホのように、携帯電話会社から購入したものではない。PACER端末はバーコードリーダーや20時間以上の連続稼働が可能な大容量バッテリーなど、市販の製品にはない機能を備える。

写真1●トライアルカンパニーが自社開発した「PACER端末」
台湾メーカーと交渉して、自社専用の業務用スマートフォンを造った
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 トライアルの従業員は出社するとまず、PACER端末にログインし、その日の作業リストを確認する。「倉庫整理 9:00」「賞味期限チェック 10:00」「玩具発注 11:00」──。作業リストはあらかじめ、店のマネジャーが作成したものだ。従業員はこのリストに従って、日常の業務を遂行する。

 従業員は作業開始時に、画面上の「作業開始」のアイコンをタップする。作業終了時は同様に、「作業終了」のアイコンに触れる。こうすることで本部は、各作業に実際にかかった時間を把握している。作業に時間がかかりすぎる従業員には、作業手順に関するオンライン学習を追加で受けてもらう。従業員が学習コンテンツを閲覧するのも、このPACER端末だ。

 PACER端末は従業員にとって、PCの代わりとなる「情報端末」だ。作業リストのほか電子メールや社内グループウエアも、PACER端末で参照する

店の様子を撮影して報告

 従業員のPACER端末には、「商品Aの陳列を増やした上で、陳列の様子を写真で本部に報告せよ」といった指示が、本部から電子メールで届く。メールを受け取った従業員は、指示通りに作業をした後に、その結果を内蔵カメラで撮影して、無線LAN経由で本部に送る。このようにPACER端末は、本部のスーパーバイザーと、店舗の従業員を直結する媒体役を担っている。「スーパーバイザーは各店舗に行かない時でも、的確に指導ができるようになった」。トライアルの西川晋二CIO(最高情報責任者)はこう語る。