村上氏写真

村上 智彦(むらかみ・ともひこ)

 1961年、北海道歌登村(現・枝幸町)生まれ。金沢医科大学卒業後、自治医大に入局。2000年、旧・瀬棚町(北海道)の町立診療所の所長に就任。夕張市立総合病院の閉鎖に伴い、07年4月、医療法人財団「夕張希望の杜」を設立し理事長に就任同時に、財団が運営する夕張医療センターのセンター長に就任。2012年5月退任。近著書に『村上スキーム』。
 このコラムは、無料メールマガジン「夕張市立総合病院を引き継いだ『夕張希望の杜』の毎日」の連載コラム「村上智彦が書く、今日の夕張希望の杜」を1カ月分まとめて転載したものです(それぞれの日付はメールマガジンの配信日です)。運営コストを除いた広告掲載料が「夕張希望の杜」に寄付されます。

2012年5月7日(6回目の5月の連休)

 ここ数年、私は5月の連休になると、いつも当直をしながら夏の準備をしています。冬の雪かき道具を納屋に片付けて、冬靴やダウンジャケットを収納して衣替えをして、苗や種を買ってきてプランターや鉢に植えて、家の周りの砂利に除草剤をまき、窓や換気扇に付けていた断熱シートをはがして、夏に備えます。

 それと大体この時期は雪が解けて下草がないので、普段なかなか見られない場所や入れない山の中や炭鉱遺産に行って夕張の記録写真を撮り歩きます(写真)。 今年はいつもの年とかなり違っていました。大雪のせいで多くの建物が倒壊していて(写真)、私が知っているだけでも10軒以上の建物が被害を受けて、その中には夕張美術館のような歴史的な建物も含まれています(写真)。

 4月の終わりころから急速に雪解けが進み、その影響で地滑りも起こりました。線路が宙吊りになってしまい、石勝線の夕張-鹿ノ谷間の鉄道が不通になり、近所の住民が避難するといった騒ぎもありました(写真1写真2)。古い炭鉱住宅を片っ端に壊して樹木を引き抜いて更地にしたところを雪投げ場として、大量の除雪した雪を置いていた影響もある様子です。

 連休の前半には休みをいただき、天気も良かったので早速夕張の丁未から万字方面に出かけて行きました。2年間閉鎖されていた道道38号夕張-岩見沢線が開通して、久しぶりに走ることができました(写真)。さすがに標高が高い夕張で、気温は15度ほどまで上がっていましたが、5月に入ってもかなりの雪が残っていました(写真1写真2)。

 実は、今まで閉鎖されていて入れなかった、この道路の先の一番標高が高い所に丁未風致公園というのがあります。ここの少し先から見える夕張岳は絶景で、夕方付近にここへ来ると、夕陽で赤く染まって周囲の風景から浮き出るような夕張岳を眺められる私の大好きなスポットがあります(写真)。この峠道は180度カーブが連続して、かなりの標高差があるワインディングロードで、バイクやスポーツカーに乗る方が運転すると、風景と共にドライビングを楽しめます。

 今年の夕張は大雪の影響ばかりではなく、明らかに観光客が少ないと思います。おそらく昨年までは札幌から十勝方面に向かう高速道路の終点が夕張インターだったのが、全線開通した影響が大きいと思います。高速道路網が整備されていくと、ここからの移動は便利になりますが、旅行客にとっては途中で降りることになるので通り過ぎて、夕張よりはるかに魅力的な十勝へ向かってしまいます。十勝の北海道らしい雄大な風景や食べ物や温泉は、私から見ても魅力的です。

 はっきり言ってこの5年間、夕張市は新しい魅力を何も発掘してきていないし、育てる努力を怠って、それを財政破綻のせいにしてきました。おそらく今度は高速道路のせいにするのでしょうが、同じことを繰り返していたら誰にも相手にされないし、集まる相手もいなくなります。あいかわらず便利さや公共工事に依存していると、それがなくなった時に何もなくなってしまい、文句や批判だけが残ります。

 観光案内所も市役所職員のアルバイトの場に利用されてしまい、機能していません。せっかくのリピーターに対しても「来て当然」といった横柄さが窺えて、長居をしないで帰ってしまっています。にぎわっているのは、雪害による倒壊現場や地滑りの事故現場くらいです。この町が破綻したのは、決して国の政策のせいではないことが実感できます。この町での「頑張っている」は、周囲と比較すると一般社会では通用しない頑張りです。

 さて、久し振りに行った万字でも写真を撮ってきました(写真1写真2)。ちょうど旭川から写真を撮りに来ていた皆さんとお会いして話をしました。「どこか炭鉱遺産が撮れるいい場所はないですか?」と聞かれて、案内しました。

 町の再生というのは、破綻した実績しかなくて税金を使って失敗しても責任を取らない行政が、また同じように時代遅れの事業をやることではありません。外部から地域に合った民間企業を誘致したり、住民の起業を応援して雇用を増やしたり、新たな産業を考えたりして、知恵で税収や人口を増やすことだと思います。周囲の自治体の成功に学ぶことなく、前例や過去の成功体験だけで税金を使いこみ、責任を参加してくれた民間業者や国や道に押し付ける無責任さにはあきれますし、絶対にうまくはいかないと思います。

 せっかく破綻して首長が替わったのに残念に感じています。地滑りで大騒ぎしている時に、首長が中国で映画撮影していたと聞いて、またあきれました。ここのマスコミはなぜか市役所には甘くて批判はしませんので、何のために居るのか分かりません。ここで大切なのは、怠慢な行政の非常識に目をつむって仲良くすることではなく、税金の無駄遣いは市民として、納税者として監視して、責任の所在を明らかにして責任を取らせることです。

 もちろん自分達は文句を言うだけではなく行動して、頑張ることだと思います。来年の5月の連休は、もう少しにぎやかで楽しく迎えたいものです。