上司から仕事を依頼されたが、特に期限は指定されず、その後何のフォローもない。しばらく経ったある日突然、「あの件はどうなった?」と報告を求められた経験がないだろうか。このように指示があったあと放置されると、定期的にフォローされる場合に比べ、やらされ感が強くなる。

 プロジェクトにおいても、PMがメンバーに仕事を依頼するとき、定期的なフォローを怠ったばかりにメンバーのやる気が上がらず、プロジェクト運営に支障をきたすケースが少なくない。そんな事例を取り上げる。

全くメンバーをフォローしないKさん

 Kさんはユーザー企業のシステム部門に在籍する、キャリア15年目の中堅エンジニアである。これまで先輩から学んできた手法を取り入れ、難しいプロジェクトも乗り越えてきた。そんなKさんが中規模システムの開発プロジェクトでPMを任されたときの出来事である。

 プロジェクトチームは総勢20人ほどで、入社2~3年目の若手からベテランまでさまざまなメンバーで構成されていた。今回のプロジェクトでは、Webシステムを開発するが、データベース部分はホストを用いる。Kさんはプロジェクト体制について検討し、Webシステムのフロント部分担当のサブチーム(Webチーム)は若手中心にして、ホストを担当するサブチーム(ホストチーム)はベテランを中心に構成した。

 Kさんはそれぞれのサブチームに、非機能要求を含む要求仕様の検討を指示した。Kさんが二つのサブチームと話したのはそれっきりだった。サブチームに仕事を投げた後は、仕掛かり中の別のプロジェクトにかかりきりになった。週次の定例ミーティングでも、各サブチームから報告を聞くだけで突っ込んだ話はしなかった。そして1カ月が過ぎ、そろそろ要件定義も終わりに差し掛かるころ、突然、進捗状況について詳細に報告するように指示したのだった。

 この突然の指示に、ベテランで構成されているホストチームは慌てることなく、作業の進捗状況、課題とその解決策をしっかりと報告をした。一方、若手主体のWebチームはそうはいかなかった。固まっていない仕様が少なからずあり、これからどうするかという見通しも立っていなかった。Kさんは、Webチームのテコ入れを図るために、ホストチームからベテラン2人を応援につけることと、工期を1週間延ばすことを認めた。

 そうして要件定義フェーズがなんとか無事に終わり、設計フェーズ、実装フェーズへと進んでいった。Kさんの仕事のスタンスは一貫して変わらなかった。仕事の指示は明確に行うものの、Kさんが関わるのはそこまで。あとは期限ぎりぎりになって、報告させるというやり方を続けた。

 このやり方の問題が露呈したのは、実装フェーズに入ってからのことだった。実装フェーズでは、Webチームの仕事の期限がそれまでよりも長くなった。期限が来るまで、基本的にKさんはほったらかしである。Webチームは自分たちで何とかしようと努力したが、1カ月が過ぎるころ、「これでいいのだろうか?」「間違っていたら取り返しが付かない」とだんだんと自分たちの仕事について不安に思うようになってきた。定例会議でWebチームのリーダーは、Kさんに対して思い切って「このままで大丈夫でしょうか」と尋ねた。するとKさんは、「君たちに任せたのだから、やりたいようにやってください。いちいち聞いてこなくてもいいよ」と答えた。

 言葉だけ聞くと、サブチームを信頼して任せているように受け取れる。それなのに、この言葉を聞いたWebチームのメンバーは、余計に不安に感じるようになった。その後どうなったか。Webチームの成果物は結合テストの予定期日に間に合わず、品質も不十分だった。若手メンバーの間からは「Kさんは仕事を丸投げするだけだ」という陰口さえ聞こえていた。チームとしての結束力が崩れ、その結果このプロジェクトは大幅な納期遅れを起こした。