ドワンゴは、コンシューマーエレクトロニクス(CE)分野におけるサービス企画開発業務の強化を目的とした子会社「キテラス」を2012年2月に設立した。

 ドワンゴではこれまで、視聴者が投稿したコメント付きで動画視聴を楽しむ「ニコニコ動画」や「ニコニコ生放送」といったサービス(niconico事業)を、テレビ、ゲーム機などのコンシューマー機器でも視聴できるように対応を進めてきた。パソコンだけでなく、スマートフォンやタブレット端末、テレビなど、ネットサービスのマルチ端末対応が進む中で、多様化するCE分野へのスピーディーな展開を図ることを目的としている。

 キテラスという社名は、ニコニコ動画のコンセプトである「奇をてらう」から付けたもので、同様のコンセプトを引き継いでいる思いを込めているという。

 CEにniconico事業を対応させる狙いとして、「幅広いユーザーの獲得」を挙げる。「ニコニコ動画やニコニコ生放送について年配の方に聞くと、『知っているけど使ったことがない』という反応が多い。こうした層も取り込んで利用を拡大するには、テレビなどCE機器へのサービス対応が欠かせない」(キテラスの鈴木慎之介代表取締役社長)と説明した。また利用機器の増加に加えて、ニコニコ動画では「囲碁/将棋」など年配層が関心を持つコンテンツの提供も強化しており、ハード/ソフト両面からユーザー拡大に取り組むという。

 CE対応事業をドワンゴ内の一部門ではなく別会社としたのは、スピード重視で新しい企画に取り組めるようにする狙いがある。キテラスは30人強のエンジニアが社員の大半を占めている。CやC++といった言語を用いるゲーム機やCE向けのソフト開発は、HTMLやJavaを用いるWebサービスの開発とは違う技能を持つエンジニアが必要という。「こうした技術を持つエンジニアがさらに力を高めやすいように、独自のマネジメント環境を構築する」という。

 キテラスでは今後、メーカーと協力しながらCEでニコニコ動画やニコニコ生放送を利用できるようにするためのアプリケーションやソフト開発を行う。提供時期は未定ながら、ソニーのブラビアやパナソニックのビエラ向けのアプリ開発が進んでおり、2012年4月に開催したイベント「ニコニコ超会議2012」で試作バージョンの実機展示も行った。イベントではパソコン以外の機器でニコニコ動画/生放送が利用できることに対する肯定的な反応が多かったものの、一方で「文字がパソコンで見るよりも邪魔」「テレビだと印象が変わる」といった意見もあり、作り込みの重要さを認識したという。

 こうしたテレビ向けの対応について鈴木社長は、「2012年内に何かしら発表したい。当初はストア経由で利用者がアプリを追加する形になるだろうが、プリインストールでも提供したい」と希望を述べた。またメーカー各社が取り組んでいるスマートTVへの対応についても、2012年から2013年にかけて進める方針である。

文字入力に課題、ハードウエア開発にも関心

 ニコニコ動画やニコニコ生放送をテレビで視聴する際の課題として「コメント入力のしにくさ」があるという。ニコニコ動画では、動画コンテンツそのものの面白さに加えて、動画画面に流れるコメントを通じて視聴者同士が交流できる面白さがある。こうしたサービスの視聴に文字入力がパソコンよりも難しいテレビを利用すると、サービス本来の楽しみが減少してしまう。テレビ向けのアプリを提供する際には、こうした課題の解決も必要となりそうだ。

 また、テレビやセットトップ・ボックス(STB)など他社のCE向けアプリ開発だけでなく、テレビによるniconico事業の利用に特化したハードウエアの開発にも関心があるという。「動画にかぶせたテキストをスムーズに表示するにはどういう描画チップが適しているなど、こちらで仕様を決めてOEM/ODMで製品を作ってもらうといったことも将来的には考えてみたい」(鈴木社長)と希望を述べた。

 配信動画の画面にユーザーコメントをかぶせるなど、すべての情報を1画面で見せる「シングルスクリーン」的な利用方法とは別に、動画本編をテレビ画面に表示し、コメントや関連情報などを手元のスマートフォンやタブレット端末で見るといった「ダブルスクリーン」的な利用方法があることについても意識しているという。「多人数で視聴するテレビと、ユーザー個人で視聴するパソコン/スマホ/タブレット端末では特性が異なる」とし、こうした違いを上手く活用するためには、スマホやタブレットなど手元の端末の画面を手軽にテレビ画面に映して大人数で見られるような機能が重要と指摘した。そうした機能を実現するための通信規格やプロトコルに関する検討も行う予定である。

 現在、World Wide Web Consortium(W3C)で検討が進められている家電製品のHTML5対応については「将来的にはテレビに乗ってくると見ており、W3Cの議論も踏まえながら、協調して対応を進める」考えだ。