快適で使いやすいユーザー・インタフェースや人を思わず夢中にさせる仕組みなど、ビデオ・ゲームの優れたノウハウを、「ゲームニクス」として体系的にまとめた立命館大学 映像学部教授のサイトウ・アキヒロ氏に話を聞いた。

ゲーム制作のノウハウを学ぶ上で知っておきたいのが、任天堂の開発スタイルだ。使いやすくて夢中になるゲームを作るには、ハードウエアの特性にマッチした ソフトウエア開発が欠かせない。これを実現するには、多人数ではなく少人数での開発の方がやりやすい。実際、同社の据置型ゲーム機「Wii」の開発では、 その中心メンバーはハードウエア担当とソフトウエア担当を合わせてそれぞれ数人しかいなかった。

 経営トップの役割も重要だ。家電メーカーとは異なり、任天堂は機能を絞ってそこに予算を集中的に投じる。こうした機能の絞り込みは、トップの判断でしかできない。経営者はものづくりの哲学、特にソフトウエアに対してある程度の知見を持っているのが望ましい。

 周囲の雑音に惑わされず自社のものづくり哲学を貫き通すためには、ある種の情報遮断も必要になる。任天堂の主要な開発部隊は、京都から外に出たことがな い。あまり流行に左右され過ぎないように、鎖国のごとく、あえて外部から入ってくる情報を抑制しているのだろう。歌舞伎や浮世絵なども鎖国時代に発展し た、日本独自の文化だ。

 とはいえ、開発では自分たちのエゴに陥らないように注意しなければならない。任天堂は社内の評価機関で、ゲームの品質をチェックしている。そのチェック項目は多数ある。ある基準値を超えないと、どんなにお金と時間をかけても製品として世に送り出すことはない。

 ゲーム制作は、ユーザーからは見えない部分にお金と時間をかける。開発者側の工夫や意図をユーザーに気付かれたら、夢中になるゲームは作れない。ゲーム 側でユーザーの意図を汲み取り、先立って準備しておく。例えば、「次はこうした操作を行うだろう」と想定し、ボタン・アイコンなどを表示させる。こうした 気遣いや心配りは、日本人の根底にある「おもてなしの文化」に通じる。これを機器開発に生かせば、日本メーカーは再び電子機器市場を席巻できるはずだ。 (談)