「内容は良いけど、絵心のないパッとしない資料ですね」

 提案書を作成するときに、一番自信がないのが見栄えのところだという技術者は多い。自分なりに分かりやすいと思って描いた図を見せたところ、「ぜんぜん分からない」「絵心がないね」と言われるのでは、自信がなくなっても仕方がない。

 冒頭のコメントも、内容は良いけれど見栄えが良くないという指摘である。絵心といえば美しく絵を描くセンスのことであり、アートの世界だ。技術や論理といったところから一番離れており、「自分とは関係ない」と思ってしまう技術者が多いのも無理のないところだ。本連載を締めくくるに当たって、「良い図とは何か」という議論から始まり、提案に有用な構造の組み立て方まで解説する。

提案が通るかどうかは見栄えでは決まらない

 現在、提案書作成に広く使われている定番のツールは、米Microsoftのプレゼンテーションツール「PowerPoint」だろう。PowerPointを使うと簡単に図形を描くことができるので、テキストのみによる説明だけでなく、図を多用した提案書が多く作られるようになっている。そのため資料の中で図の占める割合が大きく、図の上手い・下手の重要性が増している。

 図の上手い・下手で提案の評価が決まるという意見もあるようだが、ここは冷静に考えたい。提案が通るか通らないかを決めるのは、内容であって見栄えではない。図が得意という人に何人もお会いしたが、この図なら内容が悪くても通ると思ったことは一度もない。

 筆者の意見は、「提案の内容をしっかりさせることに注力し、見栄えは最小限の労力で、必須のところを押さえるようにすべき」というものだ。絵心などなくても、冒頭のコメントを言われない程度の見栄えにはできるので気にし過ぎないことだ。むしろ、自分は図が得意だと自信過剰になって、見栄えは良いが分かりにくい図を描くよりも、不得意なことを自覚できている方が良いくらいだ。