「君の提案資料は論理的だけどピンとこないな」

 コンサルタントが提案したときに、顧客からこういうコメントをもらうことがときどきある。ロジカルシンキングのテクニックを駆使し、連日深夜まで議論をして作り上げ、コンサルタントとして絶対の自信を持って提案したにもかかわらず、「どうもピンとこない」とか「なんだか気が進まない」のひとことで片付けられたときの徒労感は相当なものだ。

 このときコンサルタントがよく見せる反応は次のようなものだ。「論理的だと言っているのに、納得できないだなんて矛盾したことをいう非論理的な顧客だ」。しかし、これは勘違いである。問題が二つある。今回はそれらを説明した上で、提案に納得感を出すには論理性以外に何が必要か解説する。

論理的という言葉の意味は曖昧

 問題の一つ目は、「論理的」という言葉の意味は一般に理解が共有されていないことだ。理解の共有どころか、混乱している状況にあるので、「論理的な思考がなぜ大切か」あるいは「論理的な思考だけでは不十分だ」という議論は必ず迷走する。

 「論理的」という言葉から受けとるイメージは、これまでに受けてきた教育や経験によってかなり異なる。科学技術に携わるいわゆる理系の人、経営に関わるMBA取得者やコンサルタント、一般的な社会人、さらに、英作文を勉強した人などで違っている。

 「(1)演繹の形式で主張を組み立てること」というのが最も狭く厳格なものだ。演繹は三段論法、つまり「AならばB」「BならばC」「よってAならばC」といったものに代表される厳密な論証で、数学や論理学はこの立場だ。科学技術の訓練を受けた理系の人は、論理的と聞くとこのイメージを持つと思う。

 「(2)主張が矛盾なく、一貫して有機的に組み立てられていること」というのが、最も広く緩やかな捉え方だ。要するに、話の筋が通っているくらいの意味である。おそらくこのあたりが一般的な社会人のイメージで、普通の会話ならこれで十分である。文の有機的なつながりは言語によって違うので、使用する言語が日本語なのか英語なのかで、論理的な文であるかどうかの判断の尺度は変わる。

 では、コンサルタントが使うロジカルシンキングはどうかというと、明確な定義がされることはほとんどないが、(1)では狭すぎ、(2)では広すぎる。

 「(3)根拠によって主張を支持する構造を作ること」という定義を筆者は使っている。(1)と(2)の中間くらいもので、要するに理屈が付いているということだ。ロジカルシンキングのキーワードを使えば、「So What? Why So?」を満たす構造である。この構造のことを「論理構造」と呼んでいる。

 冒頭の「論理的だけれどピンとこない」は、一般の社会人の感覚なら「話の筋は通っているがピンとこない」という意味になり、それほど不自然なコメントではない。