「このスライドで何が言いたいのか、もっと分かりやすく整理できないか?」

 これは、IT技術者が作った提案資料を見せたときにもらうコメントの典型例である。1枚のスライドに細かい問題点や分析データと、それらに加えたさまざまな分析結果のグラフが並んでいるような資料。頑張って分析を行ったことは伝わってくるのだが、それが結局何を意味するのか分からないというパターンだ。

 こういう資料を戦略コンサルティング会社出身の人に見せると、「So What?がない」「分類をMECEにすべき」と指摘を受ける。これらはいずれもロジカルシンキングと呼ばれる情報の整理テクニックのキーワードである。今回は、これらのキーワードを解説しつつ、技術者の資料をもっと分かりやすくするための考え方を紹介する。

ロジカルシンキングとは何か

 ロジカルシンキングとは、ひとことで言えば、ある外資系コンサルティング会社に由来する情報の構造化テクニックのことだ。ロジカルシンキングは日本語で「論理思考」となり、論理学や数学が基礎になっていると思われるかもしれないが、実際には無関係だ。基礎となる学術的な理論は存在せず、上述した源流を中心にさまざまな人によって提案された実践的なノウハウの集合体である。

 言ってみれば、現代医学の裏付けがない民間療法のような感じだ。だがある種の民間療法が現代医学で治せない病気に効果があり有用性を示しているのと同様に、ロジカルシンキングは非常に広い分野で実践的な有用性を発揮している。2000年代初頭に日本で紹介されるやいなや、コンサルタントを始めとする企画系のビジネスに関わる人達に瞬く間に広まった。いまや、どこのコンサルティング会社でも使われているリテラシーとなっている。

 さまざまな人が少しずつ違う範囲のテクニックをロジカルシンキングとして紹介しているため、明確な定義は難しいが、具体的な技法として「So What? Why So?」「MECE」「ロジックツリー」と呼ばれるものがその代表格である。このうちの最初の二つについて、IT技術者が提案資料の作成にどう活かせば良いのかを説明する。