「提案書を作れるようになりたいので図の描き方の本を紹介して下さい」。

 これは、筆者の会社に中途入社した技術職の社員から受けた相談である。「図の描き方の前に身に付けることがあるだろう」と思いつつも話を聞いていくと、どうやら上手な図が描ければ提案が通る、という趣旨の記事を読んだらしい。

 彼に限らず、IT技術者がある程度経験を重ねると「提案書を作る」ことを求められるようになる。提案書の目次の構成やサンプルはインターネットを検索すればたくさん出てくるが、いざ自分の場合に当てはめて提案書を作ろうと思うと手が止まってしまう、という人は多い。

 本連載では5回に分けて、提案書の作成を求められるIT技術者のために、最初に押さえなければならない基本について解説していく。今回はなぜIT技術者に提案書作成が必要であり、良い提案書を書くために必要な基礎スキルとは何かを説明する。

技術者のステップアップに必要な提案書作成

 提案書を作ることになったときの技術者の反応はさまざまだ。「ステップアップのための必須スキル」と肯定的に考える人もいれば、中には「自分には絵心がないので無理」「どうして今さら営業の真似事が必要なのか」と否定的に捉える人もいる。

 IT技術者の多くは、自分の知識や構想力を活かし、今までにない製品やサービスを生み出したいという思いから技術職を選んだのではないだろうか。比較対象として、人間関係の構築やコミュニケーションスキルを活かし、既にある製品やサービスを売っていく営業職は自分の適性ではないと考えた人も多いと思う。

 それなのに、IT技術者としての実績が上がってきたところで、営業活動の一環である提案書作成をすることになって戸惑う人は少なくない。実際、筆者もそうだったので、この複雑な心情はよく分かる。

 しかし、技術職であっても入社後10年以上が経過し、部門の責任を持つ立場になると「売り上げを立てられなければ評価されない」という現実に直面することになる。そのために、システム開発やパッケージ導入の営業活動が求められるようになるのだ。大げさに言えば、これは資本主義の現実だ。

 さらに、社内で経営層に上申して効率改善のための設備やツールの導入を認めてもらう、あるいは新規技術の開発研究のために予算を承認してもらう、といった場面も増える。交渉してお金を獲得するという意味で「営業的」な活動である。この「営業的」活動に必要になるのが提案書作成のスキルなのである。