日本の企業開示制度の中で、IFRS(国際会計基準)は結果的にどのような位置付けになるのか。金融庁 企業会計審議会がIFRS導入方針の見直しに関する議論を進めているが、議論の行方は不確定の要素が多い。

 それでも、「IFRSが日本企業にどのような価値をもたらす可能性があるのか」をこの段階で再確認しておくことは意味があると、筆者は考えている。この連載では、IFRSを以下の四つの視点から再検討した上で、それぞれの企業にとっての価値を検討している。

  1. グローバル資本市場の共通言語的な会計基準
  2. 公正価値会計の色彩が強い会計基準
  3. 原則主義の会計基準
  4. 世界各国で利用できる会計基準

 前回(再検証!企業にとってのIFRSの価値(上))は、グローバル資本市場の共通言語としての会計基準、および公正価値会計の色彩が強い会計基準という二つの視点から、IFRSの価値を解説した。今回は、原則主義の会計基準および世界各国で利用できる会計基準という二つの視点から見ていくことにしたい。

3. 原則主義の会計基準

 IFRSは「原則主義の会計基準である」と言われる。これに対して、詳細に会計処理や開示の規則を定義している米国会計基準は「ルール主義(細則主義)の会計基準」と呼ばれている。

 原則主義と細則主義については、IFRSの特徴として様々なところで説明されているので、ご存じの方も多いと思う。原則主義では、会計処理の判断のための重要性に関する数値基準といった、具体的な判断基準や処理方法はあまり示さない。原則に従い、企業が自ら判断する必要がある。

 原則主義の対極にあるのが細則主義である。細則主義では、広範にわたり具体的な数値基準を示している。会計処理は、当該規則に従って進める。

 IFRSが原則主義を採用している主な理由として、以下の2点が挙げられる。一つめはそれぞれの企業が経済実態と会計原則に即して、会計処理や開示を実行できるようにするためである。この形を採れば、法制度が異なる世界各国の資本市場において、IFRSが同じ役割を果たせるようになる。

 二つめの理由は、近年のように次々に新たな経済取引が考案されて一気にグローバルで広がる状況では、新たな経済取引に即して詳細なルールを作成するのは事実上、無理があるからだ。取引の経済実態と会計原則に即して、企業自身が適切な会計処理や開示の方法を検討していく必要がある。