米国は移民の国である。移民の数は4000万人超とされ、我々駐在員もその一部を構成している。移民として入国するまでの審査の厳しさはさておき、いったん移民として一員になれば寛容な国に見えるかもしれない。

 だが、しょせん異国人。苦労は尽きない。米国に赴任してまずは家探し。幸いにして日本人エージェントに探してもらえたが、英語の契約書を確認して自ら英語で交渉しなければならない。家財道具一式をそろえるにしても英語で店員に思いを伝えるだけで四苦八苦する。日本で当たり前の値引き交渉も難しく、米国人と同じ恩恵を受けられることはまずない。

 米国で働く、いや生きていくためには「SSN」(Social Security Number、社会保障番号)の取得が必須だ。SSNがないと給料を受け取れないし、銀行口座すら作れない。なにかと不便なのだ。私の場合、SSNの取得に3カ月もかかった。その間はローンを組めなくて車を買えず、運転免許も取得できなかった。このため、バスに揺られながら小一時間かけてオフィスに通っていた。これらは米国に生まれ育った人には無縁で、移民だけに降りかかる試練である。

携帯電話契約時に多額の預託金も

 KDDIアメリカとその子会社のローカス・テレコミュニケーションズ(以下ローカス)では移民を対象とした携帯電話サービスを展開している。KDDIアメリカは在米日本人、ローカスは中南米出身のヒスパニック系移民が主な対象。米国の大手携帯電話事業者ではSSNがないと契約時に多額のデポジット(預託金)を要求されるが、当社のサービスはデポジットが不要。スペイン語など母国語でのサポートも提供している。決済手段の制約から契約はポストペイドよりもプリペイドが中心。母国の文化に基づいた独自のコミュニティーや生活習慣があり、それに即したマーケティングを展開している。慣れない異国の地での生活負担を少しでも減らし、本来の夢や目標にまい進してほしいとの思いがある。

 あまり裕福ではない層を対象としているローカスを通じて感じるのは、ヒスパニック系移民が日本人の移民よりも様々な面で余計な負担を強いられていることだ。例えば銀行口座を開設できずチェック(小切手)で給料をもらっている人は多く、小切手を現金化する際は手数料を取られる。祖国へ送金する際も現金で送ると余計に手数料がかかることがある。

 もはや生活に欠かせない重要インフラとなった携帯電話。誰もが肌身離さず持ち歩く特徴を生かし、これら移民特有の課題を少しでも解決できないか。それが移民向け携帯電話サービスを提供する事業者の次の使命と考えている。

山本 拓也(やまもと たくや)
KDDIアメリカの子会社経営企画部門マネージャーとして2011年5月に米国へ赴任。海外赴任は初めて。KDDIアメリカとその子会社ローカス・テレコミュニケーションズのモバイル事業に携わり、サービスの相互提供やマーケティングを担当。最近は車社会に慣れて体の筋肉が落ち、霜降り状態となってしまうのが心配。日本にいたころの体重は維持しているが、マラソン大会への参加を目指してトレーニング中。