迅速かつ柔軟な開発を目指したアジャイル開発手法を採用する企業が増えている。この連載では、アジャイル開発を主導する「賢者」に開発の極意を聞く。今回と次回に登場するのは、「リーンソフトウエア開発」を提唱するメアリー・ポッペンディーク氏とトム・ポッペンディーク氏である。

 リーン(lean)は「ぜい肉がない」ことを意味する。無駄を徹底的に排除するというトヨタ生産方式の基本理念に由来している。ポッペンディーク夫妻はこの概念をソフトウエア開発に応用し、2003年に『リーンソフトウェア開発』(日本語版は2004年、日経BP社)を上梓して高い評価を受けた。

 リーンが製造業の流れをくむのに対して、アジャイルは1990年代の米ソフトウエア業界から始まっている。ただ出自は違うものの、迅速かつ柔軟なソフトウエア開発を目指すという点は共通している。ポッペンディーク夫妻はアジャイルコミュニティーでも精力的に活動しており、世界各地で講演活動を続けている。

 日本ではいまだにウォーターフォール型開発が主流であり、様々な問題を抱えているのが現状だ。来日した夫妻に、こうした状況を打破するためのヒントを尋ねた。(聞き手は河村 博文=シーアイアンドティー・パシフィック ソリューションマネージャー)


写真●メアリー・ポッペンディーク氏(右)とトム・ポッペンディーク氏(左)
メアリー・ポッペンディーク氏(右)とトム・ポッペンディーク氏(左)

リーンのコンセプトについて説明していただけますか。

メアリー:「リーン」とはマネジメント哲学です。顧客を重視し、ひたすら顧客ニーズの把握に努め、必要なことだけを行い、効率よく価値を提供する。これらを迅速に、かつ一定のペースで少しずつ進めていきます。

 リーンはトヨタ生産方式とその研究に端を発しています。1980年代から90年代にかけて日本の自動車産業に関する研究が盛んでした。そのときに、MIT(マサチューセッツ工科大学)の人たちが、トヨタ生産方式の考え方をリーンと呼び始めました。

 リーンという言葉は今や製造業を超えて、製品開発やソフトウエア開発の領域にも広がっています。いずれも「顧客を重視する」「顧客の価値を理解する」「価値の提供だけに時間を使う」「顧客と関係ないことはしない」といった点が共通しています。