「何を考えて『動かないコンピュータ』を連載しているのか。一連の記事でどれだけ多くのプロジェクトマネジャー(PM)とその候補者が傷つき、志気を失ったことか。反省を求めたい。弁明があるなら伺おう」。

 本書の著者が主催する勉強会に出席したところ、意見交換の場で突然指弾された。どう回答したか記憶にないが、「PM志望者が減ったのは日経コンピュータのせい」と叱られたことは覚えている。

 本書冒頭で著者は「本来、プロジェクトは“人をわくわくさせるもの”」であり、PMは「優秀な人たちが競って希望するあこがれの職種であるべき」と宣言する。著者は複数の都市銀行の大規模プロジェクトに関与してきたベテランであり、PMに思い入れがある。「PMにだけはなりたくない」といった現場の風潮に憤っており、それが冒頭の発言につながったのだろう。

 「わくわくさせる」プロジェクトを増やすには失敗を減らす必要がある。著者はこう考えて本書を執筆した。売り物は、失敗プロジェクトを「変更管理不全」「意思決定遅延」「経営関与不足」など原因に基づいて114種類に分類、114種類それぞれの予防法と是正法を記述した点にある。

 PMやPMを目指す人は本書を通読すれば、システム開発プロジェクトのトラブルを紙上で体験できる。「体系だったトラブルの種類を理解」することにつながりトラブルの未然防止に役立つ。本来「トラブルプロジェクトの診断と是正には、プロジェクト遂行以上に、幅広い知識と経験が要求」されるが、一人のPMがあらゆる失敗を経験することはできないし、幅広い知識を得るまでに時間がかかっていた。

 もっとも「正しいことを正しく主張する勇気」という表現が散見される通り、プロジェクトの成否はPMの資質にかかってくる。だが、「無謀」と分類されるプロジェクトについて「開始前から多くの人が無謀であることを認識していた」という指摘があるように、勇気を持って主張することは難しい。「正しいことを正しく主張」するには自信も必要だ。本書は自信の裏付けをPMに与えるものと言える。

 なお、動かないコンピュータの連載は114種類の“病名”に対し、症例を提供するものである。著者に会う機会があったらこう反論しよう。

トラブル・プロジェクトの予防と是正

トラブル・プロジェクトの予防と是正
瀬尾 惠著
鹿島出版会発行
3675円(税込)