5月中旬に出そろった富士通、NEC、日立製作所の情報通信事業とNTTデータの2012年3月期決算は、成長戦略の進展で明暗が分かれた()。

表●富士通、NEC、日立製作所、NTTデータの2012年3月期の業績
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 日立製作所とNTTデータが新規分野や海外を伸ばし増収増益を達成した一方、富士通は既存市場の低迷で減収だった。NECはITサービス部門が増収増益に転じたものの、2011年3月期の大幅な減収減益までは挽回できていない。プラットフォーム部門は減収減益だった。

 NTTデータは国内の落ち込みを、海外での積極的な企業買収で補った。東日本大震災やタイ洪水の影響もあり、2011年の国内IT市場は「リーマン・ショックから3年連続のマイナスだった」(NTTデータ)。そうしたなか、海外の売上高は2083億円と前年度からほぼ倍増し、海外売上高比率は9%から16.6%に高まった。

 日立は、強化を図るストレージ部門がクラウド向け需要などで国内外で売り上げを伸ばした。ハードディスク事業売却も完了し、構造改革が好業績に結びついた。

 富士通は国内だけでなく、円高の影響で海外の売上高が目減りした。コスト削減やリスク管理に力を入れ、増益を確保するなど「経営体質強化の手応えはつかんだ」(富士通の山本正已社長)。しかし市況回復の目算は狂い、成長シナリオの見直しを迫られた。

 NECは業績の下振れでIT製品のスリム化、人員削減を余儀なくされ、これからが構造改革の正念場だ。遠藤社長は「一連のリストラ策で、今期は営業ベースで400億円の損益を改善する」とした。

 今期は国内IT市場がようやく底打ちし、各社とも業績回復に自信を見せる。富士通の山本社長は「震災復興もあり、製造業や流通業が新規投資に動いている」と話す。ただし、公共分野と金融業は低迷が続くという。

 2013年3月期に情報通信事業での増収を見込むのは4社のうち3社。富士通が2.2%増、NTTデータが2.9%増、NECがITサービス部門で4.7%増である。日立はストレージ部門の伸びが鈍ることなどから横ばいになるとする。

 ただし国内の市況回復は「成長率1%を見込む」(NTTデータ)など強くはなく、欧州がIT投資抑制に動くなどの不安要因もある。海外に成長を求めたNTTデータなどに対し、富士通は「他社からもシェアを奪う」(山本社長)ことに成長の活路を求める。営業部門の強化はその布石である。伸びが限られる国内市場で、富士通の攻勢に要注目だ。