勘定系システムの開発失敗を巡るスルガ銀行と日本IBMの裁判について、東京地方裁判所が3月29日に下した判決の詳細が明らかになった。日経コンピュータは『スルガ銀が事実上の全面勝訴 IBMの責任認めた判決の深層』として判決の概要とその影響を速報した。ただ、日本IBMが判決について閲覧制限を申請していたため、これまでは約74億円の賠償を命じた判決理由は公開されていなかった。

 今回、本誌が入手した判決文によれば、日本IBMが敗訴した最大の理由は、同社が米フィデリティ・インフォメーション・サービス(FIS)の勘定系パッケージソフト「Corebank」の選定に際し、リスクの回避策など十分な検討を怠った点()。上流の工程で日本IBMに重大な不備があった以上、スルガ銀が支払った費用は全て返還すべきという論理だ。

図●スルガ銀の勝訴となった東京地裁判決の趣旨
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 東京地裁は合計3回実施した要件定義が迷走したことを判断根拠とした。日本IBMは1回目の要件定義では、現行システムを解析して機能を洗い出す現行踏襲型の手法を採った。だが、同社がFISの社員などCorebankを熟知する人材を参加させなかったことから、フィット&ギャップ分析ができなかった。このため2回目、3回目に改めてフィット&ギャップ分析を行う羽目になったとした。

 Corebankは海外製パッケージのため、邦銀業務に合わせる場合、要件が大きく膨れ上がるリスクがある。にもかかわらず、Corebankを熟知した人材を投入せず、現行踏襲型の手法を採ったなどの事実から、東京地裁は「(日本IBMが)Corebankの機能や充足度、その適切な開発方法等についてあらかじめ十分に検証又は検討したものとはいえない」と判断、ITベンダーの責務であるPM義務に違反したと認定した。

 一方、東京地裁は「スルガ銀がユーザー企業の責務である協力義務に違反した」との日本IBMの主張を全面的に退けた。スルガ銀が日本IBMの求めに応じて帳票数を減らした点などを重視した。

 日本IBMは「(要件定義書など)納入した成果物は再利用可能である」と主張していたが、東京地裁は「ベンダーとパッケージが異なれば要件定義のやり方が異なる」などとして、これについても却下した。