企業情報システムを担当するITエンジニアにとって、クラウドはもはや避けては通れない存在になりつつある。

 サーバーやストレージ、ネットワークといった個々のITインフラを仮想化技術により統合し、さらにそれらをセルフサービス形式でインフラごと貸し出せるようにする、つまり「個別のITインフラ」→「仮想化統合」→「クラウド化」というIT基盤効率化の流れにおいて、「クラウドを所有する」こと、すなわちIaaS(Infrastructure as a Service)環境を自社内で構築する「プライベートクラウド」という選択肢が現実味を増している(図1)。

図1●クラウド基盤ソフトによるIaaS構築は、仮想化統合の次のステップ
図1●クラウド基盤ソフトによるIaaS構築は、仮想化統合の次のステップ
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 「OpenStack」は、IaaS構築に必要なソフトウエア群で構成されるクラウド基盤ソフトである。本連載では、OpenStackを題材に、IaaSの構築・運用をどのように実践すべきか解説していく。

テナント管理者とクラウド管理者

 OpenStackによるIaaS構築の具体的な解説に入る前に、仮想化統合とプライベートクラウドの違いについて確認しておきたい。仮想化技術により集約されたIT基盤をオンプレミスで構築するという特徴だけを捉えると、両者には大きな差はないように思える。

 しかし実際の構築・運用において、仮想化統合とプライベートクラウドには大きな違いがある。システム基盤の管理者(=クラウド管理者)と、基盤を用いた業務システムの管理者(=テナント管理者)の役割を考えると分かりやすい。

 仮想化統合の場合は、システム基盤の管理者とテナント管理者の役割分担が混然としており、基本的に両者の密な連携を求められる。このことが多くの課題を引き起こす。例えば運用監視の統合や自動化が困難だったり、リソースの割り当てや変更などの要求に迅速な対応ができなかったりする。

 仮想化統合からクラウドに進むと、両者の役割分担が明確になる。米Amazon Web Services(AWS)が提供するAmazon EC2(Elastic Compute Cloud)などのように、セルフサービス型のクラウド利用モデルが確立されているからだ。テナント管理者はクラウドによるセルフサービス化の恩恵を受け、「個々の業務・サービス」に集中できる。一方クラウド管理者は「基盤の全体最適化」にフォーカスして、運用を効率的に行うことが可能となる。

 クラウド基盤ソフトを用いたIaaS構築を実践する際においても、大事なのは、クラウド管理者とテナント管理者の役割を明確化した、運用管理の標準化・効率化である。