先日、アメリカの大手自動車メーカーであるゼネラル・モーターズ(GM)が、Facebookでの広告掲載を打ち切ることを明らかにしたと報道された。報道によると、GMはFacebook向けの広告に対し、年間約1千万ドルを払っているが、これをやめるとのことである。

 この報道については、日本国内でもソーシャルメディアに携わる業界関係者を中心に、既にあれこれと語られ始めている。今回は、この話について、少し考えてみよう。

 とは言うものの、ここでは別にGMがFacebookを活用する際における戦略の是非などを述べていくつもりはない。この話を通じて「これから」ソーシャルメディアを活用していくことを考えている企業や組織が、今後施策を検討するにあたり、何をどう考えていけばよいのかという点をテーマにしたい。

表層部分だけを見て安易に判断するのは禁物

 まず見落としてはいけないのが、今回の話はGMという非常に有名な大企業であり、かつFacebookのIPO(新規株式公開)直前というタイミングであるがゆえに、ここまで大きく報じられているという点だ。企業規模や出稿金額の大小を問わなければ、Facebookに広告を掲載していた企業が、その掲載を打ち切るという話は、国内外を問わず決して珍しい話ではない。

 個人的な印象では、特に日本国内では「ソーシャルメディアに関する話題」というと、どうしてもポジティブな内容のものが多い傾向にあるように思える。その一方で(なかなか語られはしないのだが)戦略、施策として決して成功とはいえなかったものも存在することを、まず認識する必要がある。こうした失敗のケースを調べるのは、実は(そもそもあまり語られることが多くないため)非常に難しいのだが、特に「これから」ソーシャルメディアを活用していくことを考えている企業や組織にとっては重要なことだ。

 また、ここで大事なのは、表層的な部分だけを見て「やはり効果が出ないからやめてしまおう」と安易に考えてしまうことである。これは成功失敗を問わず、過去のケースを参考にする際に意識しておきたい点ではあるが、他社の過去の成功事例をいくらなぞらえたからといって、自分たちも成功するとは限らない。また、失敗事例を鵜呑みにして、ソーシャルメディアを活用することそのものを放棄してしまうのもまた早計だ。

 今回のGMのケースでは、Facebookでの広告展開では消費者が自動車の購入につながらないと判断されたのが広告出稿を取り止めた理由だと報じられている。だが、たとえば仮に自分たちがFacebookに広告を出稿する場合どうなるのか、ということを綿密に検討していく必要はあるだろう。

自分たちのビジネスでの活用スタイルをイメージする

 自動車に限らず、自分たちが販売している製品においても購買につながらないと判断できるのか、あるいは、そもそもKPIを「消費者による製品の購入」せず、ほかのものにすることは可能なのかということを検討していくこともできるだろう。あるいは、オンライン/オフライン問わず、他の方法や施策と連携することでパフォーマンスの向上が考えられるのか、ということも検討できるだろう。そこまで密に考えた上で、どうやってもよい結果になる可能性がない(あるいは非常に低い)場合、その戦略や施策に対し「no go」を出すことが一つの選択となってくるのだ。

 これは前々回、そして前回と述べてきた「ソーシャルメディアを活用するプロジェクトが、なぜ本格的な実践に至らないのか」という点にもつながってくる。多くの場合、活用を推進する側は、社内担当者あるいは外部のエージェンシーなどを問わず、業界内でいわゆる「成功事例」としてなんとなく認知されているケースを表層的に語るだけにとどまっている。

 一方で、活用に二の足を踏む人たちも、今回のように時折報じられる戦略や施策として決して成功とはいえなかったケースについて、表層的な部分だけを見て「やはり効果が出ないからやめてしまおう」と安易に結論づけてしまう。つまり、推進する側も、そうでない側も、結果的には「自分たちのビジネスにおいて“ソーシャルメディアが活用されている状態”を、きちんと具体的にイメージできていない」ということになってしまっているのだ。

 こういった、いわば前提部分をきちんと組み上げられていないので、もちろんコンセンサスも十分に形成されることがない。実際に自分たちがソーシャルメディアを活用していくことを考えるにあたって、その「はじめの一歩」が、きちんと十分な形で踏み出せていない。それがゆえに、なかなか実践にいたらないし、仮に実践にいたったとしても、そのパフォーマンスが思わしくないものとなってしまう。

 「はじめの一歩」をきちんと踏み出せるように、自分たちが思っている以上に、十分な分析、検討を重ねていく必要があるということを、まずきちんと意識しておく必要があるだろう。

熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)
リーバイ・ストラウス ジャパン デジタルマーケティングマネージャー
熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)1974年生まれ。プロミュージシャンからエンジニア、プロダクトマネージャー、オンライン媒体編集長などを経て、マイクロソフトに入社。企業サイト運営とソーシャルメディアマーケティング戦略をリードする。その後PR代理店バーソン・マーステラでリードデジタルストラテジストを務め、2011年12月よりリーバイ・ストラウス ジャパンにてデジタルマーケティングマネージャーとなる。