欧州でスマートテレビを巡る開発競争が活発化している。2011年9月2~7日に、ドイツ・ベルリンで開催された「IFA 2011」に最新動向を見た。

 「IFA 2011」では、インターネット接続機能を備えた薄型テレビ、いわゆる「スマートテレビ」を巡る動向も、4K×2Kテレビや3Dテレビと同等に来場者の関心を集めた(表1)。

表1 IFA 2011でテレビ・メーカーが出展した主なテレビ向けサービスの例
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 欧州では、「キャッチアップ・テレビ(catch up TV)」と呼ばれる、テレビ番組のIP再送信サービスが普及しつつある。テレビ放映後の番組をインターネット経由で配信するサービスだ。多くは放映後から1週間ほど過去に遡って、テレビ番組を無料で視聴できる。

図1 大手がHbbTV対応テレビをデモ
テレビ・メーカーがIFAに出展した、欧州のデジタル放送向けIPTV規格「HbbTV」に対応した薄型テレビの例(a~c)。高価格帯の機種での対応が始まっている。
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 さらに、欧州のデジタル放送向けIPTV規格「Hybrid Broadcast Broadband Television(HbbTV)」も普及に向けた歩みを速めている。テレビ放送とインターネットを連携させた双方向サービスを実現する規格である。ドイツでは、既に地上波放送や衛星放送などで13の放送サービスが同規格を採用した。フランスでは2011年7月に本放送が開始され、スペインやイタリアなどでも導入の検討が始まるなど、HbbTVの採用地域は今後さらに拡大するとの見方が強い。今回のIFAでは、韓国LG Electronics社やパナソニック、東芝などが欧州で投入したHbbTV対応テレビのデモを見せた(図1)。

 キャッチアップ・テレビに代表されるインターネット動画配信の盛り上がりを受けて、スマートテレビ向けのサービス開発基盤の優位性をテレビ・メーカーが競っている。これが欧州のスマートテレビの現状だ。

大手3社が共同で囲い込み

 「テレビ向けアプリケーション・ソフトウエア(以下、アプリ)の累計ダウンロード数は3カ月に2倍のペースで増えている」。IFA 2011の開催に先立つ記者会見でこう胸を張ったのは、韓国Samsung Electronics社の欧州担当者である。

 IFAのSamsung社ブースは、ほぼ半分がスマートテレビと、そのアプリ関連の展示で埋まった。この分野への力の入れ具合と懸ける期待は相当なものだ。

 同社がテレビ向けにアプリ配信サービスを始めたのは2010年2月のこと。その後、約1年半の間にアプリの種類は順調に増え、2011年末には1000種類、累計ダウンロード数は世界で1000万件を超える勢いという。

 テレビ・メーカーがスマートテレビに力を入れる狙いは、アプリやサービスの提供でテレビの販売後に収益を上げる、“脱売り切り”モデルの構築にある。現行仕様の薄型テレビ自体では収益を上げにくくなったという点で、スマートテレビと次世代の4K×2Kテレビへの期待感は根が同じところにある。

 脱売り切りのために注力する取り組みが、アプリ開発者の囲い込みだ。多くの開発者にとって魅力的な開発基盤を提供できれば、多様な消費者の要求に応えるサービスを増やせるからである。2011年末から2012年にかけて、テレビ・メーカー各社による外部のアプリ開発者の囲い込みが、一層活発になりそうだ。