利用しているクラウドサービスの改善は、同様の機能を持ち、低コストの新しいサービスに切り替えれば済む話ではない。そこには情報システム部門のチェンジマネジメントが求められる。

クニエ ITマネジメントサポートグループ
山本 真、櫻井 敬昭

 前回の『遅すぎた改善(1)野放図なクラウド利用実態にがく然』では、製造業D社におけるクラウドサービスの利用実態について述べた。月末や期末にレスポンスが悪化するSFA(営業支援)クラウドサービスを、別のサービスに乗り換えたところまでは良かった。だが、何の見直しもせずにサービスを乗り換えただけだったので、業務に有用な機能の存在に気付かず、業務改善の機会を逸していた。

 さらに、情報システム部門が知らぬところで、ほとんどの事業部門が独自にクラウドサービスを導入しており、見直しも行われずに使われ続けていたという事態も判明した。多くのクラウドサービスが野放図に利用され、今となってはコストパフォーマンスが低下しているサービスを使い続けている可能性が高かった。

 今回はD社の失敗事例に対する解説編として、「なぜそのような状況が生まれてしまったのか」、また「どうすれば回避できたのか」を考察していく。解決のポイントはいくつかある。「ソリューションベース思考」と、その支援ツールとなる「サービスカタログ」「ビジネスファンクションチャート」だ。

D社には、自社のSLA基準がなかった

 それでは、順を追ってD社の事例を振り返っていこう。D社では元々SFAクラウドサービスを利用していたが、月末や期末など業務処理が集中する時期に、SFAサービスのレスポンスが急激に悪化するという問題が発生していた。現在でこそ企業向けクラウドサービスにはサービスレベル・アグリーメント(SLA)が設定され、一定のサービス品質が当たり前のように担保されるようになったが、D社がSFAクラウドサービスの利用を開始した当時にはまだ一般的ではなかった。

 だからと言って、クラウドサービスベンダーに対して「はい、取り決めをしていないものは仕方ないですね」と受け入れて、品質に関する議論を終わりにするべきではない。そうしてしまう企業の多くは、もしクラウドサービス事業者との間でサービスレベル・アグリーメントを締結していたとしても、システムのパフォーマンスを維持することは難しいだろう。