クラウドサービスは日々新しいサービスが現れ、また改善が施される。サービスが安定しているからといって契約しているクラウドサービスを使い続けることは、実は費用対効果の低いサービスにしがみついている状況に陥っているのかもしれない。

クニエ ITマネジメントサポートグループ
山本 真、櫻井 敬昭

 2006年にクラウドコンピューティングという言葉が使われだしてから6年の時が経つ。当初はその有効性に関心を抱きつつも、セキュリティ面などの不安から、導入には懐疑的な企業が多いという状況であった。

 それが先日発表された日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査2012」では、売上高1兆円以上の企業の46.9%がCRM(顧客情報管理)やSFA(営業支援)などのSaaS系サービスを導入済み、もしくは試験導入中・導入準備中と回答しており、約半数の企業がパブリック・クラウドサービスを活用するに至っている。さらにプライベート・クラウドは、売上高1兆円以上の企業の64.4%が導入済みと回答するなど、クラウドを導入・活用している企業は日に日に増してきている。

 ところで、これまでオンプレミス(情報システムを自社で管理する設備内に導入して運用すること)で構築したシステムは、多くの企業で5年間の減価償却期間を経るタイミングやEOSL(製品ベンダーが過去に販売した製品の保守を打ち切ること)のタイミングでシステムの見直しや再構築が行われている。システムを利用する業務側の要望がなくとも、継続的に機能や品質の改善を行うサイクルが形成されている。

 これに対して、クラウドサービスではどうだろうか。SaaSで提供されたメールやSFAの機能は、ともすると現場から改善の声が上がらない限り同じサービスを盲目的に利用し続けている可能性がある。これはクラウドを活用するうえで正しい姿なのであろうか。

 本連載ではクラウド化の推進に向けた4つのフェーズ、「企画」「移行」「活用」「改善」のそれぞれに潜む、クラウド化に失敗する要因について、事例を基に解説している(図1)。

図1●クラウドの導入・活用では、フェーズごとに様々な落とし穴がある。今回は改善フェーズでの落とし穴を取り上げる
図1●クラウドの導入・活用では、フェーズごとに様々な落とし穴がある。今回は改善フェーズでの落とし穴を取り上げる

 今回はいよいよ最後のフェーズである「改善」にフォーカスして、クラウド化で失敗する要因を解説する。クラウドサービスを利用している企業が、「本当は、もっとコストを抑えられた」「もっと多くの機能を利用して効率的に業務を回せた」という状況は、実に多く発生している。

 今回事例として取り上げる製造業D社はクラウドサービスを利用していたが、より有用なサービスや機能の存在に気が付かず、業務の効率化やコストダウンの機会を失っていた。D社はなぜこのような罠にはまってしまったのか。それはどのようにして回避すべきだったのか。皆さんも一緒に考えながら読んでみてほしい。