東日本大震災を機に自社のサーバーやストレージをデータセンター事業者の設備に預ける企業は多い。自社データセンターに比べ、電力の安定供給が受けられる、地震の揺れによる被害が小さいなどのメリットを期待できるからだ。

 ただ、専用業者のデータセンターといえども万全とは限らない点に注意が必要だ。震災では、津波で直接的な被害があった建物などを除けば、データセンターに大きな被害はなかったとみられる。それでも、「サーバールーム内でボルトや架台が損傷したり、免震装置が故障したりするケースが散見された」と、大成建設ビジネス・ソリューション部IT施設計画グループの川口剛志シニア・エンジニアは話す。

 震災を経て、電力設備や立地に課題を抱えるデータセンターもあることが分かっている。データセンターを選定する際は、自社のBCPの要件を満たしているかを見極める必要がある。

 加えて、データセンターの「想定外」も考慮しなければならない。データセンターが使えなくなる、データセンターとの通信が不能になるといった事態を想定した対策を講じておくべきだ。

計画停電を機にサーバー移転

 埼玉県を中心にスーパーを展開するヤオコーは震災後の計画停電をきっかけに、事業者が運営するデータセンターをより積極的に利用するようになった。

 同社は2種類のサーバーを利用している(図1)。一つは店舗用サーバー。発注業務に使うEOB(電子オーダーブック)サーバーや、店舗内の計量器を管理するサーバーなどである。もう一つは本社の基幹系サーバーだ。

図1●ヤオコーによる、店舗用サーバーをデータセンター内のクラウドサービス基盤に集約する取り組み
116店舗で使っていたサーバーをデータセンターに集約し、災害対策を強化すると同時に管理効率も高める
[画像のクリックで拡大表示]

 従来は店舗用サーバーを各店舗に置き、基幹系サーバーを事業者が運営するデータセンターで運用していた。これを店舗用サーバーも富士通が運営するデータセンターに移行する方針に変えた。営業企画部の斎田純児システム企画担当マネージャーは、その理由を「店舗ごとにサーバーがあると停電や地震が発生した場合に対処できない。災害対策の観点で一元管理したほうがリスクが小さいと考えた」と説明する。

 店舗用サーバーは、データセンターにある仮想化ソフト上に仮想マシンとして集約した。2011年11月にサーバーの移行を開始し、2012年1月末時点で35店舗の移行を完了。年内に全116店舗の移行を終える計画だ。

 データセンターにサーバーを移転したことで、停電や地震による被害や影響を最小限に抑えられる。「ほかのサーバーについてもデータセンターへの移転を進める」(斎田マネージャー)考えだ。

 店舗用サーバーをデータセンターに移した場合、回線に問題が生じたらどうするか。同社はこのリスクを考えて、2010年に移転に先駆けて、データセンターとの接続回線をBフレッツと3G回線で冗長化した。災害で固定回線事業者の設備で不具合が発生しても、携帯電話網を経由することでセンターにアクセスできる。固定回線と3G回線がどちらも不通になった場合は、現場の判断で発注業務を代行する。