前回(第3回)では、様々な緊急事態の発生時における対応の在り方をテーマとし、特に、緊急時対応のスピードアップ(復旧再開リードタイムの向上)は、製造業の現場にとって身近な「ムリ・ムダ・ムラ取り」の改善活動と共通点が多いことを説明した。

 第4回では「訓練の在り方」について述べたい。これこそが、事業継続マネジメントを継続的に改善し、緊急時の対応行動のスピード向上を実現するために最も重要な要素である。

 なお、「訓練」という言葉は「人のトレーニング」のみを指すとされがちであるが、本稿では組織の経営資源全体を鍛える観点から、「ハード(設備、備品など)のテストや検証」なども含めた概念として留意いただきたい。

訓練の目的とは

 BCPを策定した企業の多くは、PDCAのCのサイクルを回していくために訓練を実施する。多くの訓練はBCPにおける行動マニュアル通りに各人を行動させ(多くのケースでは手順を読み上げ)、課題を話し合う形式を取る。

 この形式の訓練は、「行動マニュアルの前提となる想定被害が実際にその通りに発生し、あらかじめ定められたマニュアルの流れは正しく、その通りに行動すれば正しい結果につながる」ことを前提としている。いわば想定内の世界の訓練である。

 このような形式の訓練で得られる主な成果は、言うまでもなく行動マニュアルの内容の周知徹底だ。さらに行動マニュアル通りに動くためには、どのような課題があるか課題を抽出することも目的としている。

 厳しい見方をすれば、これは厳密には訓練というよりも、行動マニュアルの検証・バグ取りのテストである。マニュアルの完成度や事前の被害想定を過信し、想定外への備えを怠ってしまう危険をはらむ。

目的に遡って、訓練を見直す

 では想定外の現象に備えるためにはどんな訓練をするべきだろうか。過ちを正すために、訓練の目的に立ち返って考えねばならない。

問:BCMにおける訓練の目的とは?
答:「事業を継続できる組織的な能力を不断に向上させ続けること」である。

問:事業を継続できる組織的な能力とは?
答:想定外の事態においても、臨機応変に素早く行動し、その結果として迅速な復旧再開を実現できる能力

問:その能力とは何によって構成されるのか?
答:(1)ハードに対する強化対策(耐震強化やバックアップ拠点・システムの設置など)、(2)役割分担や判断基準・行動手順などを整備するソフトの準備、(3)臨機応変かつ迅速な対応行動を取れる人材のスキル強化――の3点

問:訓練の目的とは?
答:上記3つの要素が現在どのレベルにあり、さらにバランスよく向上させるための課題と解決策を明らかにすること

 このように目的を明確にし(図1)、達成度を測る評価指標(KPI)を決めたうえで訓練方法を決定し、実施結果を評価することが重要である。しかし残念ながら、企業や組織における訓練のほとんどは場当たり的に行われているのが現状である。

図1●組織の事業継続能力とは
図1●組織の事業継続能力とは